SUJY-Fantasy-Factory ~アンジェリーク、遥かなる時空の中で等の二次創作と、オリジナル小説のサイトです。

炎の氷獄

vol.2


 すぐさま二人は新宇宙に旅立った。
 幾人かの兵士を同行させたが、果たして彼らの力が必要なのか、リュミエールは疑問に思う。

(……違います……。何か……。私たちを不安に陥れているのは目に見える事態ではない。もっと……何か……)

「おいっ、見えて来たぞ」

 オスカーの言葉にはっと我に返る。
 宇宙空間の一部に次元回廊を開いて、中型の宇宙船ごと新宇宙に移動した。
 深い藍色の宇宙空間は新宇宙も何ら変わりはない。
 煌めく大小さまざまな無数の星と、時折揺らめく次元の風。
 宇宙船のメインルームから360度のスクリーンパネルを通して、鈍色に輝き漂う宇宙ステーションが見える。そこが新宇宙全体を管理する“聖地”となっていた。アンジェリーク、レイチェルとともに、エルンスト、そしてヴィクトールがこの星で日々を送っている。

「あそこが……」

 自分達の聖地とはまるで違う外観の“聖地”を見つめながら、リュミエールは深い溜息をつく。

「……」

 彼女のいる場所は、色とりどりの花々と柔らかな風、そして小鳥の歌声…。四季折々の花々の香りが辺りを取り巻き、煌めく湖水が優しさを添える。……そんな場所でなければならない。
 リュミエールは自分が願っていた環境との違いに寂寥感を覚えた。
 巨大な中央のドーム状のメインステーション。
 周りに透明なチューブで繋がれた幾つものコロニー。
 惑星をベースに造られているのであろうが、そこに自然の息吹は感じられない。
 この宇宙船の数百倍もの大きさであるにも関わらず、リュミエールは『鋼鉄の牢獄』のイメージを受けた。

「美しい……。なっ? リュミエール?」

 オスカーが呟く。
 リュミエールは宇宙ステーションに注いだ視線を逸らさずに、それに答えた。

「…冷たい美しさ……ですね…」

 それに対してオスカーは一度ちらりと彼を見ただけであった。
 そうこうしているうち巨大な円形の発着所に到着し、一行は船を後にした。
 そして再び、今度は内部を移動する卵形の船に乗り換え、宇宙船から見たあの透明なチューブの中を滑る様に走り出した。科学力の粋を集結させているのだろう、卵形の船はほとんど振動もGも感じない。目を閉じていればここが聖地の自分の部屋だとも、また広大な花畑の中にいるとも思うことが出来た。
 20分程も経ったであろうか?
 いつの間にか視界は闇のお方を思わせる深い藍の色合いから鈍色の人工的な物と変わっており、それが一気に開けてシンプルな、それでいて機能的にデザインされた駅に滑り込んだ。
 新宇宙の守護者達が居するのはそこからさらに15分ほどの場所にあった。
 しかし、今回一行が案内されたのは、エルンストの管理下にあるコントロールタワーと呼ばれる72階立ての建物であった。

「ようこそ、お待ちしておりました」

 彼らの到着はすでに元宇宙から連絡が届いている。
 余分な事は何一つ言わず、エルンストは二人を奥の制御ルームに導いた。

「今一人もすでに到着しております」

 通された制御ルームは無機質の殺風景な部屋だ。
 計器類やボタン等はほとんど見あたらず、ここで本当に宇宙全体を管理できる能力があるのかどうか疑問に思ってしまう。

「早かったですね…」

 中央に立つ屈強な人物が、嫌みでもなく親しげに声を掛ける。
 女王試験のおり、精神の教官として短い期間だが聖地に滞在したこともある、ヴィクトールであった。現在は両宇宙の保安と緊急時の軍隊を束ねる指揮官として活躍している。デスクワークよりも現場の方が生き生きするともっぱらの噂であった。

「女王試験以来ですね、ヴィクトール」

 頼もしい味方を得て、リュミエールは久々に笑顔を見せた。

「相変わらずみたいだな」

「オスカー様も」

 僅かな時間ではあるが、和んだ雰囲気が辺りを包んだ。
 …が、それを見ていたエルンストはもどかしそうに口を挟む。

「…その、旧知を暖め合うのはとても良い事だとは思いますが、今は火急の事態であるので…」

「ああ、すまん。エルンスト。詳しい事を説明してやってくれ」

 懐古に捕らわれていたヴィクトールは、やや照れながらエルンストに座を譲った。

「では、説明させて頂きます」

 エルンストが中央にある四角い物体の上部を押すと、明るかった室内が急に暗くなり、立体ホログラフィーが出現した。まるで、宇宙空間に漂っているような気分である。
「これが新宇宙の管理範囲です。まだまだ膨張しているため、これからどのように変化するのか解りませんが、今のところ我々がこの範囲は全て把握しております」

 説明しながら、部屋の一部に歩み寄ると、目の高さほどに漂う一つの点に指を寄せた。

「これが、今我々のいる宇宙ステーション。“ノア”と呼んでいます」

 次に左上の星雲の中にある一つの星を指さした。

「そして、これが、女王試験のおりに発生した惑星の一つで、“ニーグル”と土地の者は呼んでおります」

「惑星ニーグル……」

 水の守護聖が呟く。

「何か意味があるのか?」

 考えこむ風のリュミエールを見て、オスカーが尋ねた。
 すかさずエルンストが答える。

「ニーグルとは『水に棲む馬』と言う意味だそうです」

「水に棲む馬……ねぇ…」

 オスカーは解ったような振りをして先を促した。

「現地の時間で二週間ほど前、アンジェリークと3人の研究員がこの惑星の調査に出かけました。なぜか特定のサクリアが異常に働き、他の力を拒んでいて、これ以上の発展はおろか、惑星が崩壊するかもしれないとの報告を受けたものですから…」

「特定のサクリア……?」

 はっとしたように顔を上げるリュミエール。そして、眉間にしわを寄せたオスカーも何か言いたげであった。

「原因の調査に出かける事を強く希望したのはアンジェリークです。そして、自らその一行に加わることも。…一日に一度は必ず報告を入れる筈でしたのに、三日目からの連絡は途絶え、こちらからの呼びかけにも答えず、今に至ってます。捜索隊も送りましたが……何の収穫もありませんでした。レイチェルが何の異変も感じていないので、大丈夫でしょうが…早急に手を打たなければ…、もしアンジェリークの身に何かあったなら…」

 珍しく私情の交じってしまった自分に気付いたのか、エルンストははっとして顔を上げ、慌てて銀縁の眼鏡を指で押さえた。

「とにかく一刻も早く、アンジェリークを探さなければ」

「もっと大幅に人員を導入しては?」

 もどかしげにオスカーが言う。

「それは…今のところ出来ません」

「なんでだ?」

「アンジェリークのご意志です。ニーグルは未だ発展の途上にある。宇宙に他の生物が存在することも、まして、我々のような「守護者」たる存在があることも知らない。ゆっくりと…、星の意思で成長しているのです。そんな星に我々が降りて、混乱を来すことは絶対に避けたいと言われました」

「だが、アンジェリークにもしものことがあったら……」

 意志の強そうな二つの視線がぶつかった。
 アイスブルーの瞳とターコイズの瞳が互いの腹を探り合う。

「もちろん…」

 やがて、ターコイズの瞳が閉じられ、再び開かれた時、先程よりも数倍強固な光が宿っていた。

「そういう事態に陥りそうな場合は、惑星を見捨ててでも彼女を助けます」

 むろん、他の者にも異存あろうはずもない。リュミエールでさえもそう思っているのだから。


「…話は終わったな。ならば、出掛けるとしようか」

 オスカーは面白くもなさそうに呟いた。





惑星ニーグルに向かうことになったリュミエールとオスカー。
そしてヴィクトールも加わり、行方不明のアンジェリークを探すが…
一体アンジェリークはどこに?



Postscript
やっぱりシリアスもの書くと人間真面目になりますね。(ホントかっ?!)
どーしても漫才に走りそうで(笑)腕がむずむずしております。
次回はいよいよ惑星ニーグルに降り立ちます。感想、予想、期待文(なんや??)等お待ちしております。