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曙光~pertⅢ 〈アンジェリークSpecial2〉




          この心の厚い氷を溶かすものは

          その限りなく優しい小さな手……。

          閉ざされた心の部屋へと続く扉を開けるものは

          暖かい春の光をともなう、

          ……愛しいおまえの微笑みだけ







 私は戸惑っている……。

 否、恐れているのだ。
 あの孤独感と喪失感、そしてなによりもまた、何もない閉ざされた闇の奥へと戻ることを。
 そうだ。
 私は凝りもせずに再び愛する心を認めてしまった。
 あの、春の日溜まりのような微笑み、黄金色に輝く翼を持ったいけとなき少女。
 初めて見たとき、何かが私の心の琴線に触れ、そっと心の扉を叩いていた。
 だが私は敢えてそれを聞かない振りをして、…聞こえぬ振りをして闇の中にうずくまっていた。

 ……そこには何もない。
 ただ自分の吐く息と、絶望へと続く暗い淵だけが存在している。
 その中に、幽かではあるが、一筋の光を認めた時……。
 私は……私は未だ希望の光が残っていたことに驚き、秘かに心をときめかせていた。…この、私が、だ。
 黄金色の光が私の心を導くものであると信じていた幼き日々。
 そのささやかな希望がうち砕かれ、私の心の中は何もない闇色の空間と厚い氷に満たされていった。そしてそれは自分の手のひらさえも見えないほどになり、僅かに残っていた黄金色の面影も見えなくなった。

 ……否、違う。
 確かにそれは存在していたのだ。
 余りにも闇が濃く漂っていて、見えなかっただけだったのだ。
 今ならば感じられる。
 確かな希望の輪郭を。
 弱々しくではあるが、暖かく脈打つ鼓動を。
 それを気付かせてくれたのは、あの少女……。
 心の扉を叩く音は日増しに強くなる。
 それを開けた時訪れてくるものは……、更に濃い闇の使者であるのか、それとも………。

 ……ふっ…、私は確かに恐れているのだ…。
 あの小さな、僅か十七年の生をしか生きてない、少女の一言を。
 ならばこのまま……、今のまま、闇の中にうずくまったままでいればいい……。聞こえる全てのもの、見える全てのもの、それらの中に私の存在する場所はない。また私の心の中にそれらは入ってくる事は出来ないのだ……。
 孤独の殻に守られて、永遠にこの闇の中を漂い続ければいい。

 …………だが、しかし………

 その恐怖をすら克服するほどの欲望が…、私の中に存在する。
 こんな事は初めてだ。
 勇気を出して、扉を開く事……。
 開けてみたいという欲望。
 その先に何が待っているというのか。
 開けてみなければ分からない。
 開けてみなければ何も変わらない。
 その勇気と、欲と、希望を、教えてくれた少女。
 開けてみようか……。
 たとえ、そのとき訪れるものが何であろうとも…。
 たとえどんなに濃い闇夜でも、いつか必ず黎明は訪れるであろうから…。
 私は……、言ってしまって後悔するよりも、……言えなかった後悔の方が何倍も辛いだろうと…悟ってしまったようだ。







 自分の心が見えない。
 どうして?
 どうしてこんなに……。
 ああ、今は試験の最中で、私はアルフォンシアを育てる事に集中しなくてはいけないのに…。

 夕闇が訪れるとあの方の瞳を思い出す。
 夜が来れば、寝ていても起きていても、あの方の髪が闇に融ける様を思い描いて。
 夜明けの光の中で、あの方の微笑みが心を刺す。
 孤独の中にひたりながらも、何かを求め続け、それでいて、自分ではその心に気付いていない…。いいえ、きっと気付きたくないんだわ。

 ……あの怯えた子供のように、自らを閉ざしている寂しさ。
 闇の安らぎを知っているのにどうしてそれを拒絶するのだろう?
 闇の濃さは知っているのに、どうして自分の中にある光は見つけられないのだろうか?

 あの方の心の扉を開くのは誰?

 あの方が待っているのは誰?

 私は星になりたい。
 あのまったき闇に希望を与える星に…。

 これは初めての心。

 これは初めての恋…。

 でも恋よりも、もっともっと深い所にある私の心が何かを叫んでいる。
“…………!”
 何?
 聞こえない?
“………、…………!”
 何をすればいいの?
 どうすれば?

 私も怖いのかもしれない。だからきっと自分の真実の声が聞こえないんだわ。自分が我慢すればうまくいく。すべてがうまくおさまって、皆幸福になれると、そう思ってる。心の声を無視して、自分の感情に蓋をして…。

 でも……、でもそれで本当に女王になれるの?
 そんな中途半端な気持ちでアルフォンシアを育んでいけるの?

 女王陛下……。
 万物を愛し、宇宙を育む、優しい白い光…。

 私はなろうとしているの?

 私はなれるの?

 私は……なりたいの?

 何もかもわからない事だらけ。
 …違うわ、たぶんきっと、……私は分からないふりをしているだけ。なぜなら、分かっている事だってあるんだもの。
 私の心の一番大切な場所に、あの方がいること。
 あの方が私の名前を呼ぶ度に切なく震える心があること。
 あの方の淋しそうな瞳を見ると、思わず手を差しのべたくなる自分がいること…。

 後悔はしたくない。

 でも、誰も傷つけたくない。

 私の言葉であの方をさらに闇の奥に導くことになったら?

 扉を開ける人が、あの方が待っている人が私ではなかったら?

 でも……、それでも…私はあの方が好き…。
 あの方が待っている人が、たとえ私ではないとしても、それでも私はあの方を……。



…TO BE CONTINUED