この心の厚い氷を溶かすものは
その限りなく優しい小さな手……。
閉ざされた心の部屋へと続く扉を開けるものは
暖かい春の光をともなう、
……愛しいおまえの微笑みだけ
私は戸惑っている……。
否、恐れているのだ。
あの孤独感と喪失感、そしてなによりもまた、何もない閉ざされた闇の奥へと戻ることを。
そうだ。
私は凝りもせずに再び愛する心を認めてしまった。
あの、春の日溜まりのような微笑み、黄金色に輝く翼を持ったいけとなき少女。
初めて見たとき、何かが私の心の琴線に触れ、そっと心の扉を叩いていた。
だが私は敢えてそれを聞かない振りをして、…聞こえぬ振りをして闇の中にうずくまっていた。
……そこには何もない。
ただ自分の吐く息と、絶望へと続く暗い淵だけが存在している。
その中に、幽かではあるが、一筋の光を認めた時……。
私は……私は未だ希望の光が残っていたことに驚き、秘かに心をときめかせていた。…この、私が、だ。
黄金色の光が私の心を導くものであると信じていた幼き日々。
そのささやかな希望がうち砕かれ、私の心の中は何もない闇色の空間と厚い氷に満たされていった。そしてそれは自分の手のひらさえも見えないほどになり、僅かに残っていた黄金色の面影も見えなくなった。
……否、違う。
確かにそれは存在していたのだ。
余りにも闇が濃く漂っていて、見えなかっただけだったのだ。
今ならば感じられる。
確かな希望の輪郭を。
弱々しくではあるが、暖かく脈打つ鼓動を。
それを気付かせてくれたのは、あの少女……。
心の扉を叩く音は日増しに強くなる。
それを開けた時訪れてくるものは……、更に濃い闇の使者であるのか、それとも………。
……ふっ…、私は確かに恐れているのだ…。
あの小さな、僅か十七年の生をしか生きてない、少女の一言を。
ならばこのまま……、今のまま、闇の中にうずくまったままでいればいい……。聞こえる全てのもの、見える全てのもの、それらの中に私の存在する場所はない。また私の心の中にそれらは入ってくる事は出来ないのだ……。
孤独の殻に守られて、永遠にこの闇の中を漂い続ければいい。
…………だが、しかし………
その恐怖をすら克服するほどの欲望が…、私の中に存在する。
こんな事は初めてだ。
勇気を出して、扉を開く事……。
開けてみたいという欲望。
その先に何が待っているというのか。
開けてみなければ分からない。
開けてみなければ何も変わらない。
その勇気と、欲と、希望を、教えてくれた少女。
開けてみようか……。
たとえ、そのとき訪れるものが何であろうとも…。
たとえどんなに濃い闇夜でも、いつか必ず黎明は訪れるであろうから…。
私は……、言ってしまって後悔するよりも、……言えなかった後悔の方が何倍も辛いだろうと…悟ってしまったようだ。
自分の心が見えない。
どうして?
どうしてこんなに……。
ああ、今は試験の最中で、私はアルフォンシアを育てる事に集中しなくてはいけないのに…。
夕闇が訪れるとあの方の瞳を思い出す。
夜が来れば、寝ていても起きていても、あの方の髪が闇に融ける様を思い描いて。
夜明けの光の中で、あの方の微笑みが心を刺す。
孤独の中にひたりながらも、何かを求め続け、それでいて、自分ではその心に気付いていない…。いいえ、きっと気付きたくないんだわ。
……あの怯えた子供のように、自らを閉ざしている寂しさ。
闇の安らぎを知っているのにどうしてそれを拒絶するのだろう?
闇の濃さは知っているのに、どうして自分の中にある光は見つけられないのだろうか?
あの方の心の扉を開くのは誰?
あの方が待っているのは誰?
私は星になりたい。
あのまったき闇に希望を与える星に…。
これは初めての心。
これは初めての恋…。
でも恋よりも、もっともっと深い所にある私の心が何かを叫んでいる。
“…………!”
何?
聞こえない?
“………、…………!”
何をすればいいの?
どうすれば?
私も怖いのかもしれない。だからきっと自分の真実の声が聞こえないんだわ。自分が我慢すればうまくいく。すべてがうまくおさまって、皆幸福になれると、そう思ってる。心の声を無視して、自分の感情に蓋をして…。
でも……、でもそれで本当に女王になれるの?
そんな中途半端な気持ちでアルフォンシアを育んでいけるの?
女王陛下……。
万物を愛し、宇宙を育む、優しい白い光…。
私はなろうとしているの?
私はなれるの?
私は……なりたいの?
何もかもわからない事だらけ。
…違うわ、たぶんきっと、……私は分からないふりをしているだけ。なぜなら、分かっている事だってあるんだもの。
私の心の一番大切な場所に、あの方がいること。
あの方が私の名前を呼ぶ度に切なく震える心があること。
あの方の淋しそうな瞳を見ると、思わず手を差しのべたくなる自分がいること…。
後悔はしたくない。
でも、誰も傷つけたくない。
私の言葉であの方をさらに闇の奥に導くことになったら?
扉を開ける人が、あの方が待っている人が私ではなかったら?
でも……、それでも…私はあの方が好き…。
あの方が待っている人が、たとえ私ではないとしても、それでも私はあの方を……。
…TO BE CONTINUED
SUJY-Fantasy-Factory ~アンジェリーク、遥かなる時空の中で等の二次創作と、オリジナル小説のサイトです。

Top > Fan fiction - アンジェリーク > 曙光~pertⅢ 〈アンジェリークSpecial2〉