龍神の神子・元宮あかねの心の声
楽しそうだったから、つい天真くんの話に乗っちゃったけど……何なのよ、この匂いは~~~!!
やっぱり、だ~れも食べ物なんて持ってきてないんじゃない? あんな風に手紙を書くんじゃなかったなあ…
それでも、お鍋に手をつけないのはルール違反だもんね…。仕方ない……
ソロソロ…と手を伸ばして、お鍋にお箸を入れて。その中で泳いでるモノをえいっと掴んだ。
ふに
な、なに…この感触…? すっごい柔らかいんだけど…
そういえば詩紋くん、生麩みたいなのも入れてたよね。という事は……ラッキー♪ 食べ物に当たったんだ~♪
そうよね、私、龍神の神子として頑張ったもの。日頃の行いは悪くないもんね!
ふっふ~♪ 安心しちゃった。
それはそうと、私の入れた使い古しちゃった筆、誰が掴んだのかなあ?
◇
天の青龍・源頼久の心の声
神子殿の命(めい)とは言え…恐ろしい事態となってしまった。
私なら何を掴んでも構わないが(だが、出来れば食材を掴みたいと思う)、万が一、私の持ってきた物を神子殿が掴んでしまったら……いや、神子殿だけではない。他の方々が掴んだとしても、島流しの刑は確実だろう…(汗)
私がそれを掴めば良いのだろうが、この暗闇ではどうする事も出来ない。だが、私の蒔いた種(?)だ、出来るだけ己自身で解決しよう。あの重さからして、鍋の底の方だろうか……
父上、兄上……この頼久にお力添えを……!!
ガチンッ
…………!!!
これだ! 私が持ってきた短刀に間違いない…!
ああ…父上、兄上……心からお礼申し上げる……(感涙)
◇
地の青龍・森村天真の心の声
うしし、この瞬間がたまんね~♪ キケンだと思ってても、こればっかはやめられねーよな。
それにしても妙な匂いだな、オイ…;; やっぱ、食いモン限定にした方が良かったか…? まあ、今更言っても仕方ねーけど。
でも、他のヤツらのさっきの反応を見た所、ヤバイもんを持ってきたっぽかったよな。かく言うオレは靴下…じゃなく、足袋だけどよ(ちゃんと新品だぞ。でなきゃ、こんなナベ食えるかっての・汗)
さって、早いトコ取らないと残りモンになっちまうな。そういや詩紋のヤツ、魚も入れてたっけ。きっと沈んでるだろうから、底を探った方がいっか。
ガチャン
ガチャン???
何だ、一体…? さ、魚じゃねーのは確かだな…(汗)
◇
天の朱雀・イノリの心の声
宴するって言うから、今日は朝から何にも食ってねーんだぞ!? 詩紋のメシをたらふく食おうと思ってたのに、何だよ、この宴はっっ(怒)
それに、何か持って来いって言われても、オレには仕事場のカナヅチしかねーっての!! そんなモン、食えるワケねーじゃん!
…はぁ……こんな事なら、姉ちゃんの作った粥でも食ってりゃ良かった……。でもなあ、オレだけ仲間外れになっちまうのもシャクじゃん? 仕方ねぇ…ハラを括るか……
恐る恐る妙な匂いのする鍋に手を伸ばして………何かを掴んだ。
………?
何だこりゃ? ちょっと固くて…妙に細い…? そういや、詩紋が食いモンも入れたって言ってたよな。…という事は、これはゴボウだな、きっと。
やりぃ! オレって運がいーじゃん♪
◇
地の朱雀・流山詩紋の心の声
……はあ……気が重いなあ……。だって、この匂い、この世のものじゃないよ。それに、かき混ぜた時のあの手ごたえ(?)。固い物がぶつかったり、ガチャガチャっていう音がしたり……皆何を入れたんだよぉ……
まあ、あんな手紙を送ったんだから、食べ物を持って来てくれるなんて思いもしなかったけどね。だから、ボクは無難に魚とか野菜とかの
color="#FFFF00">食べ物を入れておいたんだけど……さっきかき混ぜた時はそんな感触は全然しなかったんだよね(汗)
食べないでおこうかなあ……;;
でも、本当の言い出しっぺは天真先輩とは言え、誘ったのはボクも入ってる。やっぱりごまかしちゃダメだよ、うん。
………ええいっっ!!
気合を入れて、お鍋にお箸を突っ込んで。掴んだ物を持ち上げてみた。
シャラン……
シャラン???
な、何の音だろう。鈴…みたいだったけど…
食べ物じゃない事は確かだね…;;
◇
天の白虎・藤原鷹通の心の声
この鍋から何となく漂う侍従の香り。……これは恐らく私のせいですね;;
催し事にお使いになられるとの事でしたので、喜ばれる物をと思い、侍従の香袋を持ってきたのですが、まさかこのような事をなさるとは思いもしませんでした。異世界とは本当に未知の世界です。
しかし、香なのですから、あの袋にはもう何も残ってはいないでしょうね。全てあの鍋の中に溶け込んでしまっているかもしれません。害はないかと思うのですが…どうでしょう(汗)
それにしても、他の方々は一体何を持って来られたのでしょうか。ですが、この闇鍋の事は誰もご存知なかったのですから、恐らく食材など何ひとつ入っていないのでしょう。……少し心構えが必要となりますね;;
そういえば、詩紋殿は食材も入れたと仰っていました。…という事は、鍋の底よりも浮いている物の方が野菜にありつけるかもしれませんね。
そう思い、湯気を感じながら鍋の水面をすくうように箸を進めました。
………?
掴んだ…というより、何かが箸に引っかかってしまったようです。
な、何でしょう、これは…?
持ち上げてみると、少し重さを感じました。…という事は、野菜ではないようですね…(遠い目)
◇
地の白虎・橘友雅の心の声
闇鍋、か。
全く、神子殿…というより、天真か、思いもしない事を思いつくものだね。異世界ではこういう事ばかりしているのかねえ…
何か持ってきて欲しいとの事だったので、神子殿の為に文を書き、花を調達してきたというのに、まさか鍋の中に放り込む羽目になってしまうとは…。このように煮えたぎった鍋では、文も花も溶けてしまってるかもしれないねえ。折角会心の出来の歌だったというのに、あまりの出来事で思い出せないくらいだよ;;
だけども、神子殿が開いた宴だ、楽しまないとね。でないと、あの姫君を哀しませてしまう。それだけは、私としては一番避けたい所だ。
それにしてもこの闇鍋、闇の中だから誰が何を入れたかわからないのだが、でも、それぞれの性格や生活環境(そして、鍋をかき混ぜた時のあの音)を考えれば、大体わかりそう…かな。闇鍋の事を知らずに持ってきた物だから余計にね。
さしづめ、頼久は護身刀、イノリは仕事道具、詩紋は食材、永泉様は数珠、藤姫は姫君らしい物…といった所か。そして、鷹通は間違いなく香だね。それも侍従だ。これだけは断言できる。
わからないのは神子殿と天真。そして、一番予想つかないのが泰明殿。
予想できないだけに、この三人の物には当たりたくないねえ…(頼久やイノリも考えものだけれど;;)
……と考え込んだ所で、この闇の中では品定めなんて出来る筈もないか。とりあえず、沈んでいる物でなければ、身の安全は保障できる…と思いたいけれど…(汗)
鍋の中に箸を入れてすくい上げると、何かが引っかかった。
引っかかった事と、この重さ……
どうやら、永泉様の数珠(予想だけれどもね)かな?
◇
天の玄武・永泉の心の声
何という事になったのでしょう…。神子や天真殿、詩紋殿のお考えになる事は本当に予想もつきません。
このような事なら、兄上から頂いた唐渡りの菓子を持てば良かったですね…。食べ物よりは…と思ってしまった私(わたくし)の至らなさ(?)が悪いのでしょう。いえ、あの菓子を持って来ても、このように煮えたぎった鍋に入れてしまってはどうしようもありませんね(汗)
それにしても、私の持ってきた紫水晶の数珠をあのような鍋に入れてしまって…神罰が下らなければ良いのですが…。明日は神仏へのお祈りを普段以上にした方が良いかもしれません。
この闇鍋、暗闇の為、その中までは見えないのですが…この匂いは一体…? どことなく侍従の香りがするという事は、どなたかがお持ちになられたものなのでしょう。ですが、何やら色々な匂いが混じってしまって……こうなると、奥ゆかしい侍従の香りも形無しですね;;
ああ…こうしている場合ではありません、鍋の物を取らなくては…。これも神子の仰った楽しい催し事。それに参加しなければ……
ね、願わくば、食材を掴めますように。
そう神仏にお祈りする一身で、私は鍋の方へと手を伸ばしました。
じゅく……
じゅく…??
箸でつまんだ瞬間、何やら汁物が流れ出たような感覚です。野菜…かもしれませんね。良かった、私の祈りは神仏に届いたようです(ほっ)
◇
地の玄武・安倍泰明の心の声
下らぬ。全くもって下らぬ。…い、いや、神子(と天真と詩紋)が提案した闇鍋だ、そんな事を言ってはいけない。
しかし、“闇の中で何を取るのかわからないから面白い”という闇鍋の醍醐味はわかった。が、私には味わえないものだな。
何故なら、暗闇の中でも鍋の中の様子が大体わかるからだ。加えて、誰が何を入れたかも把握済み。だから、鍋の中に少しだけ入っている食材を選び取る事など容易すぎる。
…それにしても…このような催し事をするのなら、先にそう言え。このような事をするとわかっていれば、ここに来る途中に捕まえた冬眠中の蛙など持っては来なかったものを……
昨夜、神子からの文を読み、夜も眠れないほど悩みに悩んだのだが、結局屋敷を出る時刻になっても思いつかなかった。しかし、神子がああ言ってきたのだ、手ぶらで行く訳にもいかぬ。
そんな時に目に入ったのが、畦道にいた蛙。
冬眠中にたまたま起き出していたのだろうが、この時期に蛙など珍しい。神子に見せてやろう……そう思っただけだったのに。
だが、その蛙は先程逃がした。やはり生きた蛙を鍋になど入れられぬ。それで、仕方なく隠し持っていた薬の玉を入れたのだが……これがまたかなり不味いのだ。しかし、蛙が神子の手に渡るよりはずっとマシだ。それに、いくら蛙とは言え、私とて生ける者を殺めたくもない。
神子は……恐らく食材を得てはいないだろうな。仕方がない、私がかき集めて、それを神子に食わせてやるとしよう。
魚と…野菜と……この中で食える物は、全て神子のものだ。誰にも渡さぬ。
◇
「よし、全員取ったか~?」
鍋から全員の手が離れた時、また天真殿の声が聞こえました。
私は背丈が小さい為、竃の火により、はっきりではないのですが、皆様方のお顔を垣間見る事が出来ました。どなたも真剣な眼差しで、食材のみを探している……そんな表情でしたわ;;
私がこんなにも落ち着いているのは、食材を掴んだからです。ええ、確実に。だって、箸でつまんだ瞬間、いつもの感触だったのですもの。ふふ、私、とっても安心してしまいましたわ。
ですが……お父様から頂いた私の髪飾り……どなたの手にわかったのでしょうか……
「天真。まだ明かりは灯さないのか?」
「一口食ってからだ。見たら食えないかもしれねーだろ」
「…食える物などないように思うがな」
や、泰明殿…不吉な事を仰らないで下さいませ(汗)
「まあ…オレの持ってるモンも食いモンじゃねーような気がするけど(汗)」
「じゃ、食べなくてもいいから、口に入れるだけ…っていうのはどう?」
「だな。で、この屋敷の誰かに松明を灯してもらうとするか」
神子様の提案で、とりあえず口に付けるだけ…という事になりました。そして、ちょうど警護で見回りに出ていた者に火付け役を頼みました。
「よ~し。せーので口に入れろよ?」
暗闇の中、皆様方が頷きます。
「せーーのっっ!!」
ぎゅっと目を閉じ、かぷっ…と先程取り出した物を口へと運びました。
な、何でしょう、これは…。野菜だとばかり思っていたのですが、どうも違うようですわ。
「何コレ~~~?? 生麩…じゃない?? …っていうか、苦いーーーーー!!」
「は、歯が……(汗)」
「うぎゃーーーーー!!! いってーーーーー!!! 血…血の味がするぞ!?」
「…? ゴボウ…じゃねーじゃん。何だこりゃ???」
「か、固いよぉ…」
「こ、これは一体??? 何やら固くて丸い玉のようですが…?」
「……侍従の味……。鷹通の香が当たったようだねえ…」
「噛めども噛めども噛み切れませんね…。鍋の出汁が出るばかりで…」
「問題ない(出汁は不味いが)」
神子様、頼久、天真殿、イノリ殿、詩紋殿、鷹通殿に友雅殿、永泉様に泰明殿……順に言葉が聞こえ、その次の瞬間、松明の火が灯されました。
わ、私……紙を口に……?(汗)
「コレ薬? それにしても、苦い~~~!!」
「か、金槌…?」
「だっ誰だーーーー!? 短刀なんて入れたのは!?」
「ゴボウかと思ってたのに、コレ筆じゃんかよ! どーりで墨っぽい味がした筈だぜ…」
「わ~~~!! コレ、藤姫の髪飾りじゃないの!?」
「じゅ、数珠を口にしたなど…。何て罰当たりなのでしょう、私は…(汗)」
「……しばらく、侍従は焚きたくないねえ……」
「た、足袋!!??」
「…思った通りの物だな。下らぬ」
ご自分で口にした物を確認したからか、(泰明殿を除いた)皆様、大混乱となっていました。
私もそうですわ。ま、まさか紙を食すなんて、思いもしませんでしたもの;;
その混乱が少し覚めた頃になって、神子様と天真殿、詩紋殿が、もう1つ鍋を運んで来られました。また闇鍋をするのかと、皆様お思いになられたのか、少しお顔が引きつったように見えました。
「今度はちゃんとした山の幸、川の幸のお鍋だよ。いっぱい食べて下さいね!」
「ふふ。夕餉をご馳走して、催し事をするからって言ったでしょ?」
まあ…あの闇鍋が夕餉ではなかったのですね。良かったですわ。……もしやと思っていただけに(汗)
「またヤミナベするか?」
今度はとっても良い匂いのする熱々のお鍋を前にして、天真殿がそう尋ねられました。
八葉の方々のお返事?
それは、皆様のご想像にお任せ致しますわ。
ですが、異世界のお遊びとは、この京にはない、ちょっと危険で、でも、ドキドキして楽しいものばかりなのだという事を付け加えておきますわね。
◇おしまい◇
いるかさんのコメント(いるかさんのページより抜粋)
やっと書いたぞ、ナベネタ~♪ というのも、昨年9月に、オフ会で「遙かツアー」をしたんです(つまり、京都に遊びに行ったんです)。その時、夜ごはんにナベを食べたんですが、食べながら思いついたネタが「ヤミナベ」だったんです(笑)。いつか書こうと思いつつ、ようやく手に付けられましたわ(^^;;)
ちなみに、黄色の太字になっている物が、それぞれが持ってきた物です。
ホントはね~…泰明さんは持ってきてたカエルをナベに入れてたんです(爆)。で、それを神子ちゃんが……になっちゃうと、もうシャレにならないので却下されました;;
それにしても、ウチの頼久さん……どっかおかしいよ、やっぱり(苦笑)
ぴんくいるかさんからフリーの創作を頂いてきました(^^) 「闇鍋」っていう過激な(笑)ネタなのに、どうしてこんな微笑ましく読めるのでしょう~。いつもいるかさんの描写力には感動してしまいます。素敵な作品、どうもありがとうございました(^^)