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続・異世界のお遊び *壱*


とある冬の日。もう夜も更けた頃になって、神子様からお文が届きました。
神子様から私にお文なんてとても珍しい事です。どうなさったのかと思いながら、文を開きました。



藤姫へ♪
明日の夜、私と天真くんと詩紋くんで夕餉をご馳走したいと思います。
宴…になるのかな? それで、藤姫にも来て欲しいな。
もし来てくれるのなら、楽しい催し事を考えてるので、何でも良いから何か1つ持って来て下さい。で、それは誰にも見せないでね。
あ。この文は他の八葉の皆にも送ってます。皆で楽しく遊びましょう☆

P.S. 持ってくる物はよ~~~く考えてね。後悔するかもしれないよ♪



「まあ…神子様と天真殿と詩紋殿が宴を? 勿論参りますわ。ですが、何かを持って行かなければならないのですね。それに……」

最初の記号(文字?)がよくわかりませんが、安易な物ではいけないようです。催し事でお使いになられるとの事ですが…どうして”後悔”という言葉に繋がるのでしょうか。

「神子様方が思いつかれる事は、私の想像など遥かに越えていますわね;; ですが、いつもとても楽しませて下さいますもの。今回もきっとそうなのでしょうね」

悩みに悩んだ末、私はお父様から頂いた髪飾り(いつも付けている物ではありません・汗)を持って行く事にしました。
神子様方、一体何をなさるのでしょう。明日の夜が楽しみですわ♪


次の日の夕刻……ではありませんわね。もうとっくに日は沈んでしまいましたもの。当然外は真っ暗。そのような時刻になってから、ようやく神子様主催の宴が始まりました。
……が、何故場所がお庭なのでしょう(汗)

「何だよ、宴するって言うからハラ空かせて来たのに、詩紋のメシがねーじゃんか!」
「しかも、何故このような場所なのだ? 立って食うのか?」
「この季節に庭で…は、少し寒すぎるのではないかい?」

イノリ殿は本当にお腹を空かせて来られた模様。泰明殿や友雅殿も、お庭という宴の場所に少し怪訝そうな顔をなさいました。
私もてっきり詩紋殿のお料理を頂けるのだとばかり思っていたのですが、膳の上には……いえ、お庭にはその膳さえもありません。ただ、石を積み上げて竃を作り、その上に大きな鍋が置いてあるだけで。天真殿が懸命に火をおこしていらっしゃるので、その鍋からは蒸気が絶え間なく上がっています。
一体どのような宴をなさるおつもりなのでしょう。

「くっそ~。こっちの世界にガスコンロがねー事、すっかり忘れてたぜ。まさかカマドを作って火を起こす事から始めなきゃなんねーなんてよ」
「でも、言い出しっぺは天真くんなんだからね」
「わかってるよ! だから、モンク言わずにやってるだろーが!」
「…天真先輩、今言ってる事はモンクじゃないの?(汗)」

まあ…どうやら本当の主催者様は天真殿のようですわ。ですが、また聞いた事のない言葉が…

「天真。”がすこんろ”とは何だ?」

さ、さすが泰明殿。どんな異世界の言葉も聞き逃さないのですね;;

「ガスコンロか? オレ達の世界のある簡易カマドの事だ。こんな風に薪を入れたりしなくても、スイッチひねるだけで火が出るんだよ。ふふん、スゲーだろ」
「? ”すいっち”とは何だ?」
「だーーー!!! 大人しく頷けっっ」
「わからぬものに頷ける筈がない」

あ、相変わらずですわね、天真殿と泰明殿は…;; ですが、仲が良いのはとても喜ばしい事ですわ。

「よし。これくらい燃えてりゃ、しばらく大丈夫だろ」
「お鍋もちゃんと沸騰してるしね。それにしても、ダシの取り方、覚えておいて良かったなあ」
「…詩紋…お前、もう立派なヨメになれるな…。誰かさんも見習えってんだ。ダシの素使っても妙な味になるのは誰かさんくらいのモンだよな」
「てーんーまーく~~~~ん? 何か言った~~~?(怒)」

ああっ!! み、神子様の背後に、もういらっしゃらない筈の龍神様のお姿がっっ(汗)

「ほらほら、神子殿。そんなに怒っては可愛いお顔が台無しだよ? 笑って、笑って」
「と、友雅さんってば;;」
「…とっとと始めろ(怒)」
や、泰明殿の気が膨れ上がっていますわ(汗) このお二方も相変わらずですのね;;

「コホン。今日は寒い中、来てくれてありがとう」
「挨拶なんてどうでもいーじゃん。それより、何で外なんだよ?」
「ごめんね~。私達も部屋の中でしたかったんだけど、さっき天真くんが言ってたように、ガスコンロがない事を忘れてたの。こっちの世界じゃ、お鍋が使える所って台所しかなんだもん。そこじゃ、やっぱり落ち着かないでしょ?」
「…確かに…台所で宴ってのも聞いた事ねーな……(汗)」
「寒いけど、お鍋だし、すぐにあったかくなると思うよ。……多分ね(汗)」

寒い中での外の宴ですが、仕方がない状況だったのですね。イノリ殿や他の八葉の方々も納得されたようです。それにしても、異世界では鍋を膳において食事をなさるのでしょうか。不思議な習慣があるのですね…

「あと、何か1つ持ってきてくれた?」

皆様が頷きます。
「それじゃ、ヤミナベパーティを始めたいと思いま~す♪」
「「闇鍋???」」
皆様、今度は首を傾げました。
「あ。やっぱりこの京にはないよね。じゃ、天真くん。説明をどーぞ♪」
「説明すっぞ。ヤミナベってのは、オレらの住む世界での楽しい冬のお遊びだ。だが、かなり命がけな時もあるぞ」

い、命がけ…?(汗)
「まず、今はこのカマドの火と松明でこの場を明るくしてるけど、松明の火は消しちまう」
「暗闇の中で鍋をするから闇鍋というのですね。わかりやすい料理の名前で何よりです」
「チッチッチ♪ そんなカンタンなモンじゃねーぞ、永泉。命がけのナベだって言っただろ」
「は…?」
「な~んの為に、お前らに“何か”を持って来させたと思ってんだよ?(ニヤリ)」

松明に照らされた天真殿が少し笑みを浮かべました。……が、恐ろしい笑みに見えたのは私だけなのでしょうか(汗)

「て、天真殿。もしや、私達が持ってきた物をこの鍋に入れるのですか…?」
「ご名答。で、箸で掴んだら最後。それは絶対に食わなきゃなんねー。それがヤミナベのルール…じゃなくて鉄則だ!」
「………(汗)」
鷹通殿のお顔が…松明に照らされているのにも関わらず、真っ青になってしまわれました。な、何をお持ちになられたのでしょうか。
そ、そんな事より! 私はお父様から頂いた髪飾りを持ってきたのですわ! そ、それを鍋の中に入れて…食べる…?(汗) お文に書いてあった“後悔”とはこの事だったのですね;;
み、神子様……それならそうと、“食材を”と一言つけて頂きたかったですわ…

「でも、安心して下さい。ちゃんとした食べ物も入ってますから」
「ちゃんとしたって……詩紋、オレらが何を持って来たか知ってんのか?(汗)」
「知らないよ」
「へ??」
「中身が何なのかわからないのが、ヤミナベの醍醐味なんだもん。楽しみだね、イノリくん?」
「んなワケあるかっっ」
……皆様のお顔が…本当に青ざめていらっしゃいますわ;;
ですが、神子様が主催された宴。それをどうして拒む事が出来ましょう…。だから、提案されたのは天真殿ですのに、神子様がお文を書かれたのですね。誰も断れる筈がありませんもの;;

「じゃ、松明消すぞ~」
天真殿のお声と同時に、竃の火を除いた明かりという明かりが全て消え、辺り一面が真っ暗闇となりました。隣にいる頼久の顔さえ見えないほどです。その闇の中、鍋の煮えたぎる音だけがお庭に響いていました。

「じゃ、持ってきた物をナベの中に入れて下さ~い」

暗闇の中で、今度は詩紋殿のお声が聞こえました。
…お父様…お許し下さいませ。まさかこのような事とは思わなかったのです。ですが、これも闇鍋の鉄則……本当にお許し下さいませ。

ポチャン……
鍋の中に沈む音がしました。
私の髪飾り、一体どなたに食されてしまうのでしょう…(涙)(←というか、食べれませんって;;<天の声)
八葉の方々も鍋に入れているのか、次々の鍋に沈む音が聞こえました。

「フタをして沸騰させるから、ちょっと待って下さいね」

お鍋に蓋をして数分後、何とも言えない香りがお庭を包み始めました。
これは……どなたかがお香を持って来られたのではないでしょうか…。それが他の物と混ざり合って、このような香りを醸し出しているのでは……(汗)

「詩紋くん、もういいんじゃない?」
「そうみたいだね。沸騰したみたいだし、中身に火が通ったかな。ちょっとかき混ぜてみるね」

ガチャガチャガチャ……
「…とても鍋をかき混ぜてるとは思えない音だねえ…(汗)」
「一体何が入っているのでしょう……(汗)」
「ね、願わくば、食材に手を付けたい所です…」
「異世界ってワケわかんねー事するんだな…(汗)」

友雅殿、永泉様、鷹通殿、イノリ殿のお声が聞こえました。そういえば、泰明殿が珍しく大人しいですわね(いえ、あまりの事に皆様の言葉数も少ないですが;;)

「泰明さん、どうかした? あんまり喋ってないみたいだけど…」

神子様も同じ事を思っていらっしゃったみたいですわ。

「…いや…このような事なら最初に言えと思っていた」
「あはは。だって、食べ物を持ってきてって言ったら面白くないでしょ? ヤミナベの醍醐味がなくなっちゃうもの」
「それは…そうなのだろうが……」
あの泰明殿があのように仰るなんて。……という事は、妙な物を持って来られた…という事ですわよね…(汗)

「うん、もういいんじゃないかな? …って、味見はしてないけどね(汗)」
「よし。じゃ、全員ハシを持て。いいか、一番最初に掴んだ物は絶対に離すな。それがヤミナベの鉄則だ!」

ゴクリ
暗闇の中、皆様の緊張が一気に高まったように感じました。
外は相変わらず寒いのですが、もうそれさえ感じないほどです。

「行くぜ! せーのっ!!」
天真殿のお声で、皆様方の手が鍋に伸びました。