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夢見たちの見る夢


gift from かえママ


金髪の女王候補は、やけに浮かない顔をしている。
自分の館に遊びに来たかと思えば、そういう顔をされていてはオリヴィエとしては面白くない。

「いったい何があったんだい?」

大体、今日の訪問だって彼女から言い出した事なのだ。

「話ぐらいは聞いてあげられると思うけど?」

それに何より・・・

「そんな顔してるなんて、あんたらしくないじゃないの?ほら、ちゃんとこっち見て笑いなさい。あんたは私にそんな渋い顔を見せにわざわざやってきたのかい?」

「いえ、そういう訳では・・・」

彼女はティーカップの取っ手をいじりながら、何か思い悩んでいるようだったが、ようやく決心がついたのだろう。ぽつりぽつりと話し始めた。

「実は・・・その・・・最近、ちょっと・・・夢見が悪くって・・・」

「夢?」

「ええ・・・よくは覚えていないんですが、起きたらひどく気分が悪くって・・・」

それで「夢の守護聖」である自分に相談に来た、という訳か。

「何?あんたは私に夢占いでもしてもらおうっていうのかい?」

「ゴメンナサイ!そんなつもりじゃ・・・」

(しまった、ちょっとやりすぎた・・・)

彼女の困った顔が見たくて、ワザと冷たい態度を取ってみたらオリヴィエの予想以上に彼女は恐縮してしまった。やはり、連日の不眠で疲れているのだろう・・・

「ゴメンゴメン・・・謝ることはないんだよ。ちょっとからかってみただけ。何にせよ私に相談に来てくれたって事は、すごくうれしいんだから。ただ、残念なことに、私は夢占いできないんだよね・・・」

「そうですよね」

少しだけ微笑んで彼女が言う。

「夢の守護聖様だからって、占いは管轄外ですよね」

「確かに本職ってわけには行かないよね」

オリヴィエは、ふとある人の事を思い出す。

「あの方が居れば、きっと力になって頂けただろうに・・・」

「あの方?」

アンジェリークは正直驚いている。
何せ、自分の遥か先輩に当たるであろうジュリアス様にさえ呼び捨てなオリヴィエが「あの方」と呼ぶ人間が居るなんて・・・

「あの方って、どなたの事です?」

「ん?稀代の夢見、ケイファ様だよ」

「けいふぁさま?」

「ああ、あんたの生まれる前の事だからね、知らないのも無理はないかな?」

オリヴィエは、少し遠くを見つめるような目をしながら言う。

「あの方の力はすばらしいものだったからね、きっとあんたの夢も解決してくれたと思うよ・・・」

そして、ふと何かを思い出したように彼女の顔をみてクスっと笑った。

「どうしたんですか?私の顔に何かついてます?」

「いや。ちょっと思い出し笑い・・・」


「ところで、そんな方とどうやって知り合われたんですか?」

「あ、ゴメン。言い方が悪かったみたいだね」

オリヴィエは、慌てて説明する。

「ケイファ様は、私の前の夢の守護聖だった方だよ。私はあの方によって、聖地へ導かれたんだ・・・」

「そう言えば、オリヴィエ様ってあまり昔の話、なさいませんよね?」

「え?」

彼女は無邪気に見つめている。

「聞きたいのかい?」

「はい!」

「・・・あんまり思い出したくないんだけどね・・・それに・・・」

ちょっと恥ずかしいし、と思う。
でも、彼女になら話してもいい気持ちになっている自分に気がつく。

「まあ、あんたになら話してもいいよ。でも、絶対に他の人には秘密だからね」

「はい!」

彼女の目が真剣になる。それが又愛しい・・・

(二人だけの秘密ってのも、悪くないかな・・・)




あの日、オリヴィエは何度目かの父親との喧嘩を終えた後だった。
折角伸ばし始めた髪は、例の如くばっさりと切られてしまった。

(・・・もう少し、大人しくしとけばよかったかな・・・)

昔からキレイなものが好きだった。別に女性になりたい訳ではないが、ただそういう者が好きだったことは事実だ。
父親はどうやら彼のそういう所が気に入らなかったらしい。
男はたくましく、強くあるべきだ、というのが彼の持論だったからだ。
当然、デザイナーになりたいなどという彼の希望は聞きいれられるはずもなく、いつも喧嘩ばかりしていた。

「チャラチャラと髪なんぞ伸ばしおって!そんなだから、なよなよした考えしか浮かばんのだ!」

そういって、父親はいきなり彼の髪を切ってしまった。

(折角、結べるぐらいにまでなったのに・・・)

服装は仕方ないが、せめて自分の髪ぐらいは自由にしたかった。
日の光に映えてキラキラと光る、自分でも自慢の髪なのだ。

いつかこの星を抜け出して、もっと大きな町へ行く。
それが今の彼の夢。
とにかく、今は我慢するしかない。もっと自分に力がつくまで・・・

(そしたら、こんなところ出て行ってやる・・・)

「・・・おい、本当にいたぞ・・・」

ふと気がつくと、数人の男が自分を見つめている。
この辺ではあまり見ない格好・・・生地と仕立ての良さが、彼等が上流階級の人間であることを表している。

「・・・なんだよ、俺に何のようだ・・・?」

「しかし、こんな辺境の星に・・・」

彼等は、自分の話など聞いてはいない。

「おい、ちゃんとわかるように話しろよ、それとも庶民とは口が聞けないとでも?」

「ああ、失礼した」

多分、一行の中で一番えらいのだと思われる若者が答える。

「あまりにも意外だったので、皆少し驚いているのだ。やはり、あの方の夢見はいつも正しい・・・」

「夢見?」

「・・・日の光を纏う、失意の闇に包まれたもの。君はまさに我々が探していた方だ」




「オリヴィエ様、俺なんて言ってたんですか?」

「誰にだって、若い時はあるんだよ。あの頃は父親が色々うるさかったからねぇ・・・」



我々は主星から来たのだと彼等は言った。
そして、ずっと自分を探していたのだと。

「私達と一緒にきてもらえないだろうか?」

ここから抜け出せるなら、どこでもよかった。
だからすぐに答えた。

「ここ以外の場所だったら、どこへでも・・・」

両親にはろくに説明もせず、ただ身の回りの物だけをかばんに詰める。
母親が心配そうに見つめている。
父親にはさっきの男達が何やら説明をしているようだが、もうオリヴィエには関係のないことだった。
ここから抜け出せるのだったら、本当に何処へ行ってもよかったのだ。

「もう二度と帰ってこないから。残りは全部処分して・・・」

母親にそう言うと、彼は後ろを振り返る事なく家を後にした・・・

主星への道すがら、彼が説明されたのは次の様なことだった。
それは、彼が「守護聖」と呼ばれる人間の跡継ぎであること。
そして、これからこの「世界」全てを守っていく人間であること。

主星は、彼の想像を遥かに超えたところだった。
全てが驚かされることばかり。

「こちらへ・・・」

例の男が自分を連れて行ったのは、美しいある館の一室。

「御主人様、お連れしました・・・」

男が頭を下げる先には、どうみても10才に満たないであろう少年、いや少女が椅子に腰掛けている。
黒色のまっすぐな髪を、肩の辺りで切り揃え、頭には見たこともない飾りを付けている。そして、髪の色よりも深い瞳の黒は、一切の光を吸い込んでしまうようだ・・・

「ようこそ、夢の館へ」

まるで鈴が鳴るような軽い声。

「貴方を歓迎しよう、次代の夢の守護聖、オリヴィエ」

こちらへ、と手招くしぐさに導かれる様に、オリヴィエは彼女の側へ近づいていく。

「顔に触れてもいいだろうか?」

「え?」

 以外な言葉にオリヴィエは彼女の顔をしげしげと見つめる。そして、その瞳が全ての像を結んでいないことに気が付く。

「そう、私は目が見えない。だから、貴方の顔を確認させてほしいのだ」

 言われるがまま、オリヴィエは彼女の前に膝まづく。
 彼女の指が、羽のように軽く触れる・・・そして、その指が髪に触れた。

「・・・やはり、切られてしまったのか・・・もう少し私が早く貴方を見つけていればこんなことにはならなかったのに・・・」

 シュジャ、と彼女が男を呼んだ。

「彼の髪は、やはり金髪なのか?」

「はい、ご主人様のお言葉通りの、日の光を写し取ったようなすばらしい金髪です」

「そう・・・残念だった・・・せめて、一目見てみたいものだな・・・」

「貴方は・・・?」

「ああ・・・名乗るのが遅れたな。済まない」

 少女が微笑む。

「私はケイファ。当代の夢の守護聖だ」

「夢の・・・守護聖・・・?」

 まさか、このような少女が・・・と思った心が通じたのか、ケイファが笑う。しかし今度は少し寂しそうに見えたのは、オリヴィエの目の錯覚だったか・・・

「少女、か・・・私は少女ではないよ。まぁ、少年でもないがね・・・」



「そういえば、守護聖様達って、皆さんサクリアに目覚めてからはお年を取らないんでしたっけ?」

 アンジェリークが小首を傾げる。
「全然取らないって訳じゃないよ、すごく遅くなるってだけ。だから、髪を切ったらいつのまにかちゃんと伸びてるし、ま、一年やそこらじゃ変わらないけどね」

「じゃあ、オリヴィエ様っておいくつなんですか?」

「それはノーコメント!」

「あ、やっぱり?」

 アンジェリークがにこやかに笑う。

(やっぱりあんたは笑った顔がいいね・・・)

 オリヴィエもつられて笑う。

「話を戻そうか?」

「はい!」

「確かに守護聖は年を取らない。でも、あの方の場合そういう訳ではなかったんだ・・・」



「私がいくつに見える?」

「・・・10才くらいかと・・・」

 オリヴィエは正直に答える。隠しても見透かされる、そう思ったから。

「そして、女の子に見える訳だね?」

「・・・違うのですか?」

「この方は、特別な方なのだ」

 シュジャと呼ばれた男が誇らしげに答える。

「ケイファ様は、常人を超越したところに居られる、まさに稀代の夢見なのだ」

「夢見?」

 聞いたことのない言葉に、オリヴィエは少し戸惑う。

「私の生まれた星も少し辺境でね、そこでは夢を渡る力を持つ者を夢見と呼ぶのだよ。私はその力を持っている、そして、その力に目覚めた時に体の成長も止まったのだよ」

「・・・じゃあ、いったいどれくらい・・・」

「さあな、200年はこのままのように思うのだが・・・?」

「200才?!」

 ケイファは笑う。

「・・・もう疲れてね、数えるのを止めてしまったのだよ」

「そうやって、常人と少し異なる方の場合、夢見の力は強くなる」

「だからケイファ様は歴代随一の夢見で有らされるのだ」

 よほどシュジャはケイファの事が自慢で仕方ないらしい。



「じゃあ、そのケイファ様は10才のまま、年を取らなかったのですね?」

「そう。そして、話はそれだけじゃ終わらなくってね」

 オリヴィエは少し悲しそうな顔をする。

「あの方の目が見えない事も言ったね?」

「はい」

「それだけじゃないんだ・・・足も動かない。自分の力では歩けない方だったんだよ。それに・・・」

「それに?」

「・・・性別も、どうやらなかったらしい・・・」



「どういう事?!」

 始めに聞いた時、オリヴィエは耳を疑った。

「そんなことって、聞いたことない!」

「私の村では、極稀だがそういう子供が生まれる・・・」

 ケイファが説明する。

「多分、血が近い所為なのだろうな・・・我々は余り他の人々と交わらないから。だから、他の土地と比べて、そういう不完全な人間が生まれる確率が高いのだ。その代わりに、そういう子供は特別な力を授かる・・・」

「・・・それが・・・夢見・・・?」

「そういう事だ」

 まぁ、私ほど重なる事は本当に稀だがね、とケイファは苦笑する。

「何をおっしゃいます?!だからこそ、偉大な力をお持ちなのですよ?」

 シュジャが言う。その言葉にケイファは再度苦笑する。

「・・・まぁ。そうだろうね・・・」

 オリヴィエは、ケイファの館の一室に部屋を与えられた。
 ここで彼からサクリアの使い方など、守護聖としての全てを教わるらしい。
 しかし、自分に何ができると言うのか?
 例えばケイファの力、夢見というのは一言で言うと「他者の夢を覗く力」。夢にはその人の全てが現れるものらしい、つまり「夢を見る」という事は「その人の全てを知る」に等しい行為なのだ。

「それだけではありません」

と、シュジャは熱くオリヴィエに語ってくれた。

 ケイファほどの夢見になると、夢を覗かなくてもその人の過去も未来も予言できるらしい。その気になれば、目の前の人間の本心を知ることなどとても簡単なのだそうだ。

「例えば、貴方の所在もケイファ様の夢にて占われました」

「夢?」

「はい。貴方の姿を夢でご覧になったのです」

 つまりケイファの夢を頼りに、オリヴィエの住む星を見つけ、そしてそこに住む数多の人からオリヴィエを見つけたという訳だ。

「そうでなければ、これほど短期間に貴方を見つけることはできなかったでしょう」

 まさか、あんな辺境の地に・・・と、言いかけてシュジャは慌てて口を閉ざす。

「ま、実際辺境だけどね・・・」

 しかし、それほどの力を持つ人間の跡を自分が継ぐ?
 夢占いさえ分からない自分が・・・?

「おやおや・・・夢見と「守護聖」は別ものだよ?」

 ケイファが笑う。

「歴代の夢の守護聖が皆夢見な訳がないだろう?」

 確かにそれはそうだ・・・

「貴方には貴方の、私には私の役割がある。たとえば・・・」

 ケイファがオリヴィエの髪に触れる・・・

「貴方は夢が叶わない辛さを知っている、そしてそれでも夢を叶えたいと思う強い心をもっている。私が思うに、それが貴方のサクリアではないのか?」

「夢を・・・叶えたいと思う強い心?」

 そう、それだけは誰にも負けない・・・

「いいかいオリヴィエ、同じ人間など何処にも居ないのだよ?双子でさえも、生まれ出でた瞬間から別の人格が備わるのだ。だから、貴方は貴方の望む道を進めばいい・・・」

 そして・・・と、ケイファは付け加える。

「その光で、夢を叶えたいと願う人々を照らしておくれ・・・」

「光?」

「そう、貴方は光を身に纏っている。その姿こそ、まさに夢の具象化ではないのか?」

 同じ人間は誰もいない・・・
 自分は自分の道を進めばいい・・・

 それを「個性」と呼ぶのだと、オリヴィエは知った。



「それからなんですか?オリヴィエ様が個性的になったのって?」

「そうかもね?元々デザイナーになりたかったから。何せ守護聖じゃない?色々な布とかも使い放題な訳よ?もう、楽しくって夢中になったね・・・」

「今の様な話し方もその頃からですか?」

「うーん、これも自然にこうなっちゃったのよね」

 ケラケラという軽い感じで、オリヴィエが笑う。
 アンジェリークも、明るいオリヴィエの笑顔が大好きだった。

「ところで、ケイファ様ってその後、どうなるんです?」

「そう・・・あの方のサクリアが薄れてきたから、私が呼ばれた訳で・・・」



 その日は突然にやってきた。
 それはオリヴィエが聖地に招かれてから一年が過ぎようとしていた頃。髪も伸び、ようやく自分を見つけた、オリヴィエがそう思い初めていた頃の事だった。

「オリヴィエ様、お越しを・・・」

 シュジャの只ならぬ気配に、オリヴィエは何かを感じた。

「まさか、ケイファ様に何か?」

 部屋に駆けつけると、ケイファはベッドに横たわっている。

「ケイファ様?」

「・・・早かったね、貴方の夢を見たのでね。伝えておこうと思って・・・」

「夢、ですか?」

 オリヴィエは面食らった。夢の内容を伝える為にわざわざ呼び出したのか?

「まぁ、そういうでない。貴方の将来に関わることだから」

 ケイファが微笑みながらそういう。しかし、その微笑にどこか力がないように思うのは気のせいか?

「日の光の下、貴方と同じ様に日の光を纏った少女が、貴方に微笑みかけている。ここ数日、同じ少女が私の夢に現れる・・・そして、守護聖様と呼ぶのだが、どう見ても場所が外だから、私ではない。ようやく今日、分かった。これは貴方の夢・・・」

「私の、ですか?」

「そう・・・遥か未来に、貴方はその少女に出会う。そして・・・」

「まさか最後の夢見で、貴方の未来を見るとは・・・神様というのは、なかなかシャレがお好きらしい・・・今、朽ちようとする魂がこれからの未来を見るなんて、とても暗示的ではないか?」

「何をおっしゃるのです?」

「何って、貴方がここへ来た時からわかっていた事ではないか?」

 ケイファがきっぱりと言う。

「私のサクリアが尽きる。だからこそ、次代の守護聖を探した、そうだろ?」

「それはそうですが・・・」

「思ったよりも長く持ったよ。貴方に会えてよかったと思う・・・」

「私は・・・私はまだ自信が持てません・・・私は貴方のようには・・・」

「言っただろう?オリヴィエ。私になる必要はないんだよ。それに、私こそ貴方の様になりたかったのだから・・・」

 ケイファが手を伸ばし、オリヴィエの頬に触れる。

「私と貴方は、まるで鏡に映した存在のようじゃないか?貴方は昼を、私は夜を彷徨う者、貴方は美しく、そして健康的で何より生命力に溢れていて、強い意志をもっている。それに比べて私はどうだ?自分の足で立つことすら叶わない・・・」

 ケイファの手からふいに力が抜ける。

「!誰か、医者を!」

「いい、もうこのままにしておいてくれ・・・」

 ケイファは言う。

「いつか言ったろ?貴方は夢を叶えたいと願う人の力になってほしいと。だから今は私の力になっておくれ。今まさに私の夢が叶おうとしているのだから・・・」

「貴方の夢、ですか?」

「そう・・・死して生まれ変わる、それこそが私の夢・・・」

「私の為に祈っておくれ。私が生まれ変わり、今度は常人となる様に・・・」

「ケイファ様・・・」

「自分の目で見、自分の足で歩く。そして、私の子供を残す・・・子を残すことが出来ないなど、これはもう人ではあるまい?」

 ケイファが笑う。

「今度こそ人になりたいのだ・・・夢見の力など要らぬ・・・ただ、普通の人に生まれて普通に生活する・・・それが私の夢・・・」


「まさに貴方と私は、真反対なのだな・・・貴方は生きて夢を叶える・・・私は死なねば夢が叶わぬ・・・」

 だから、とケイファは言う。

「私の夢を叶える為に、その力を貸しておくれ・・・当代の夢の守護聖よ・・・」



「・・・亡くなられたのですか・・・?」

 オリヴィエは静かにうなづく。

「サクリアが尽きると同時に、死んでしまう守護聖は結構いるんだよ。生前その力が偉大だったほど、終わりが来るのも早いのかもしれないね・・・」

「でも・・・」

 涙を堪えて、アンジェリークが言う。

「きっと、ケイファ様の願い、叶ってますよね?」

「何を言ってるんだい?」

 オリヴィエが笑う。

「私の初仕事だよ?私が失敗すると思ってるの?」

「ところで・・・ケイファ様の予言って、何だったんですか?」

「ん?ナイショ・・・」

 貴方は、彼女に出会い、そして恋に落ちる。

 それは最後のケイファの予言・・・そして、それは又も成就する・・・

「ねぇ・・・」

 と、オリヴィエが言う。

「死が二人を分かつまで、って良く誓いの言葉にでてくるじゃない?」

「結婚式で、ですか?」

「うん、そう」

 アンジェリークが小首を傾げる。

「通常に考えれば、私はあんたよりも先に死ぬ。私が守護聖であんたが今普通の人間って意味でいえば、多分あんたの方が先に死ぬ」

「何をおっしゃるんですか?」

「まぁ、最後まで聞いといで。多分、よほどの事がなければどちらかが先にしぬ。でも、その最後の瞬間まで、私はあんたの傍にいるよ」

「?!」

 その言葉の裏の意味を悟って、アンジェリークの顔が赤くなる。

「それが今一番の私の夢。私のサクリアも半端じゃないからね、絶対に叶えるよ」

 夢を叶えたいと願う心なら誰にも負けない。
 それこそが自分のサクリア・・・

「死が二人を分かつまで、私はあんたの傍にいるよ・・・」




Postscript
かえママ様からの頂きものです(^^)
とっても不思議な魅力漂うお話ですよね。
ケイファ様の夢、オリヴィエ様の夢……。
夢の形は違っても、彼らはまさに“夢”と“希望”を人々に与えてくれる夢の守護聖様なんです(;^^;)
もうケイファ様の魅力にクラクラ…。
素敵な超大作、ありがとうございました(^^)