春の日溜りの微笑を持つ少女、アンジェリーク…
今は私の腕の中で、私だけに微笑みかけてくれ
私はお前の為だけに……ここにいる
「仕度できました? クラヴィス様??」
私の瞳の色よりも明るい、光沢のある紫色のコートをはおった彼女が ─── 柔らかな陽射しのような金色の髪と慈愛深きエメラルドの瞳を持つ私の最愛の妻、アンジェリークがドアの影から覗きこみ、声をかけた。
「……仕度? ………この服ではいけないのか?」
「えぇ~、それっていつもの守護聖様の正装じゃないですかぁ~。パーティですよ、パーティ。クラヴィス様ぁ~~、いつもと違うかっこしてください~~」
アンジェリークは淋しげに瞳を潤ませる。
「……わかった……」
私は彼女のその瞳に弱いのだ。
ただでさえ彼女の望むことは全てかなえてやりたいと……、そう思っているのに、そんな瞳をされてしまうとどんな無謀なことであろうと、条件反射で頷いてしまうのだ。
(あ、甘い…(--;;) 甘いです……、クラヴィス様……)
………まぁよい。
彼女の微笑を見るためならば、そんな些細なこと、どうでもよいことだ。
(……だからそれが甘いんだって……)
しかし、いつもと違う……といっても、一体どのような服を着ればよいのだ?
私がそう思っていると、彼女はにっこりと笑った。
「どういう服を着たらいいのか考えてらっしゃるでしょ??
うふっ、私に任せて」
………さすが我が妻。
私が何も口にしなくとも、ちゃんと分かっている。
ふっ……、これが愛というものか……。(………誰でも分かるんじゃないかと思いますが……(--;;))
そうこうしてる間に、私は彼女に着替えさせられ、正殿に向かう馬車に乗せられ、大広間に続く回廊に導かれていた。
なんと、良く出来た妻であろうか。
私を煩わさずとも、滞り無くことが進んで行く。
「もう皆さん、来てらっしゃるようですね。私たちも早くいきましょう」
今夜は主星のどこかから(笑)、だれかが(爆笑)、何らかの用事で(大爆笑)やってきた歓迎のパーティだ……とかジュリアスが言っていたような気がするが、私には関係のないことだ。(…そうでしょう、そうでしょう………)
補佐官になってから初めての、このような盛大なパーティのせいか、アンジェリークは上機嫌だった。心なしか興奮で頬が紅潮しているように思える。
そんな彼女を見ることは、私にとって至上の幸福だ。
何のパーティかなどは、どうでもよい。ただ、彼女がこのように喜んでくれるのならば、私は毎晩でもパーティを開いてやってもよい………と思うのだが。
(毎晩は……きっついと思います~~)
控えの間でコートを脱いだ彼女を見て、私は思わず息をのんだ。
………………………………美しい…………。
胸元が広く開いた、黒い、光沢のある生地の貫頭衣。(か、カクテルドレスなんですが……)
たっぷりと布地を使った、ひだひだのたくさんある服の(…ドレープといってください………(--;;))、動くたびに膝上にある裾がふわふわと彼女の髪のように揺れる。
その悩ましげな胸を強調するかのように、胸の下でパープルのリボンがきゅっと締め上げていた。
白い肌がまぶしい胸元には、ゴールドとアメジストをあしらった首輪。(そ、それわ……チョーカーです………)
幾分あどけなさの残る彼女の顔立ちとは対照的だが、それが妙に大人っぽく、なんともいえない艶をかもしだしている。
このような所でなければ即座に押し倒して…………。
………いや、場所などかまうものか…。
私は彼女を引き寄せようと、そっと手を伸ばした。
「………、その服……よく似合っている」
「ほんと? 本当にそう思います? よかったぁ~。ちょっと大人っぽすぎるかなって心配してたんです。─── ほら、クラヴィス様の髪と瞳の色に合わせたのよ。クラヴィス様のタキシードも、私とお揃い」
私の誉め言葉に浮かれたらしいアンジェリークは、伸ばしかけた私の腕をするりと交わして、目の前でくるっと一回転してみせた。
「皆様……、気に入ってくれるかしら……?」
ふっと一転して不安げな表情。
……そのくるくると鮮やかに変わる表情も、私の心を捉えてやまない。
「……無用の心配だと思うが…な………」
私は天使を腕に抱き損ねるという失態を犯したが、その一言でみるみる戻ってくる笑顔に免じてその場は我慢することにした。
…………が。
何故か忍び寄る一抹の不安。
この姿で………皆の前に出るのだな……アンジェリークは………………………不安だ…。
「……クラヴィス様も。よく似合ってますわ」
私の心中をよそに、にっこりと極上の微笑を投げかける。
あ、愛らしい………眩暈がするほど……愛らしい……。
私に気力さえあれば、「これは私の妻だぞ~」と叫びながら、聖地を一周してきそうなほどだ。
(頼むからそんなことしないでください……(T_T))
私は何時の間にか不安が吹っ飛んで、誇らしげな気持ちで一杯だった。
彼女の笑顔は私の心の黒雲など一瞬にして吹き飛ばしてしまう。
「いきましょう、クラヴィス様」
彼女は私の手をとって、広間へと続く扉をくぐる。
そこは目映いばかりの光と柔らかな音楽の中、色とりどりの服に身を包んだ大勢の客らしき人々がさざめいていた。
その中の着飾ったどんな婦人よりも、私のアンジェリークは………。
私はまたしても自分の妻を誇らしく思った。
その考えを裏付けるように、私達が入室してきた途端、客どもの注目を一斉に浴びる。
『補佐官殿だ……』
『闇の守護聖様とご一緒におられる』
『なんと……愛らしい』
『本当にお綺麗でいらっしゃるわ』
『まさに……天使……と呼ぶに相応しい方だ…』
『黒のカクテルドレスが金の髪に映えて』
『ご結婚なさってからますます美しさに磨きがかかったようだ』
等々々々々…………。
ふっ…………。私のアンジェリークだからな……当然の賞賛だ…。
私は中央に延びる絨毯の上を上座に向かって歩みながら、それらの声を耳にしてすっかり悦にいっていた。
「アンジェリーク!」
この声は……、緑の守護聖か…。
守護聖において最年少の者であるが、実は一番の曲者だ…………と私は思っている。
「うわぁ~~、そのドレス、とっても似合ってるよっ。いつもの補佐官の服も素敵だけど、とっても大人っぽくて……。なんだか僕……、ドキドキしてきちゃった」
にこっと、一見なんの邪気もない笑顔。
…と、緑の守護聖はふっと傍のテーブルにあった花瓶に目を止めると、そこから一輪の深紅のバラを抜き出し、丁寧に棘の有無を確かめてから、なんと私のアンジェリークの髪にすっと飾ったではないかっ。
「うん。バラも喜んでる。君をより一層引きたてることが出来て」
「ありがとうございます。マルセル様」
うっすらと頬を染め、恥ずかしそうにアンジェリークは微笑を返す。
礼など言わなくていいっっ!!
くっ……、さすがカティスの教育の賜物といえよう……。
確かこの者はアンジェリークに懸想していたな。
ふっ…………だがアンジェリークが愛する者は私だっ。
「…………行くぞ」
「はい」
その一言で私の後をすたすたついてくるアンジェリーク。
………勝ったな……。
子供の出る幕なぞ、あろうはずもなかろう。
(大人げないですよ、クラヴィス様……)
そして数歩も行かぬうちに、こんどは鋼の守護聖と風の守護聖に出くわした。
「あっ、アンジェリークっ」
「よおっ」
二人は私のアンジェリークの姿を上から下まで一通り眺めると、ごくんと息をのんでしばし言葉を失っていたようだった。
「こんばんは、ランディ様、ゼフェル様」
アンジェリークはにっこりと微笑を浮かべる。
…………むっ……。
先ほどの緑の守護聖の賛美に自信をもったのか、アンジェリークの浮かべる笑顔はまさに全ての者を虜にしてしまうような極上の笑顔。
それを見た二人の年若い守護聖どもの顔が真っ赤に染まる。
私の天使は、またしても己の隠れた崇拝者を作ったな……。ここまで露骨であれば、隠れてるとはいえぬが……、なんと罪作りなことか…。
私は鼻先でふっと笑い、アンジェリークを促してその場をさっさと立ち去ることにした。
これ以上私のアンジェリークの姿を堪能させるつもりはない。
背後から
「ちぇっ、クラヴィスのやろー、一人占めしやがって」
「アンジェリーク…、綺麗だな……」
などという声が聞こえてはいたが、………勝手にほざくがよい。
アンジェリークを庇護するように少し後ろにつきながらゆくと、人々の間に玉座が見え、そこに女王陛下と、残りの守護聖らがいた。
光の守護聖ジュリアスと、地の守護聖ルヴァ、炎の守護聖、夢の守護聖、そして水の守護聖リュミエールだ。(オスカー様とオリヴィエ様は名前の認識無しですか…(--;;))
女王陛下を中心とした彼らはまだたっぷりと距離があるにも関わらず我らを見つけ、そして一応にざわめいていたようだった。
しかし、段を上ってゆくなり、場から炎の守護聖がすっと歩みでて、女性であれば誰彼かまわぬ軽薄さでもって私のアンジェリークに手を差し出す。
「いやぁ………レディ。今夜の君はいつもに増して美しいな……。
君の美しさは知っているつもりだったが………、どうやらこの炎のオスカーの落ち度だったらしい。これほどあでやかな君を見逃していたんだからな」
別人のような美を披露したアンジェリークにすっかり鼻の下を伸ばし切った炎の守護聖は、彼女の白い手を取るとそこに恭しくキスを落とす。
貴様っっ………………………………。
私の怒りは表にどれほど現れていたのだろうか?
とにかく、炎の守護聖は私から噴出している憤怒のオーラに気付き、ぎょっと目を剥いた。そして追い詰められた獲物がよくするように、僅かずつ後ろに引いていき、己の逃げ場を探して目を泳がせる。
再度アンジェリークに触れてみろっ、貴様を女っ気など髪一筋ほどもない暗黒のナドラーガよりも更に深い漆黒の闇の底へ、叩き落としてやるッ!
そう思ったとき、炎の守護聖は私のテレパシーが通じたのであろう、リュミエールの髪の色よりも蒼白な顔をして、こくこくと頷いた。
………ふん。
私が壮絶なる沈黙の戦いをしている間に、アンジェリークはとことこと階段を上り切り、女王陛下の前に進み出ていた。
「陛下っ、……いやんっ、そのドレス、とっても似合ってるぅ~~」
妖艶な姿態とは裏腹の甘ったるい声が女王陛下を賛美する。
なるほど。
今夜の女王陛下は特別にしつらえたらしい衣装を召していた。
髪と同じ色合いを持つその衣装は、女王の権威に相応しく美しい宝石が散りばめられ、あでやかで派手な美貌を持つ尊顔に相応しい。淑やかに露出を控えた服も、露出を控えるがゆえに身体のラインをくっきりと浮かび上がらせる造形で、人々を魅了していた。私でさえそう思うのであるから、「女王陛下、命!!」であるジュリアスや、彼女に想いを寄せるルヴァの胸中は押して知るべし………か。
「あなたも…とっても綺麗よ、アンジェリーク。
………本当にまるで別人みたいに色っぽくなっちゃって。これはクラヴィスの賜物かしら?」
無礼講のパーティで親しげにアンジェリークに言葉をかける陛下は、ちらりと私のほうを見てウインクして見せた。
その言葉に首筋まで朱に染まるアンジェリーク。
ふっ……、愛い奴……。
「やだぁ~、陛下ってば」
「いえいえ、陛下の仰る通りですよ、アンジェリーク。あー、そのー……なんだかいつものあなたとは全然違っていて別人とお話しているようで、……なんだかそのー、緊張しちゃいますねぇ」
……お前は女性と話すときはいつも、緊張しているではないか……、ルヴァ…。
ルヴァをもして、かように言わせるアンジェリークに、私は鼻高々だった。
再度、思う。私に気力さえあれば、「これは私の妻だぞ~」と叫びながら………云々。
(だから、やめてくださいってーの……(T_T))
「本当に綺麗だね、アンジェリーク。私の出る幕なんてこれっぽちもないよ。美しさをもたらすのは私の役目なのにねぇ~」
美の守護聖、……いや、夢の守護聖も女王陛下の信望者だ。
「やだ、オリヴィエ様、あんまり誉められると恥ずかしいです…」
まんざらでなさそうな彼女は、火照った頬を冷やすかのように手をあてた。
「いーや、私が言うんだから間違いないよ。ね? リュミちゃん?」
はっ、………。
うかつなことに、私は今更ながらに気付いてしまった。
水の守護聖リュミエール。
いつも私の傍らにいて何かと気をつかい、私を闇の淵から引き上げようとしてくれていたリュミエール。
その司る力のごとく命を育むやさしさと、そして流れるような柔軟性をもった麗人。
リュミエールが密かに、私のアンジェリークに想いを寄せていたことを、私は知っていた。その溢れんばかりの想いをハープの調べに乗せて、私の部屋で奏でていた日々。
私の思いを知っていて身を引いたのか、それとも自身が吹っ切れなかったのか、とにかく彼はアンジェリークにその思いを告げることはなかったが………。
リュミエール………。
お前はいつもそうやって己を犠牲にしてまで他人の幸福を願うのか………。
そしてアンジェリークの幸福の為に、愛する少女をこの私の腕に渡し、じっと絶え入る様はこの私でさえも健気で美しいとさえ、思うぞ………。
さすがの私も申し訳無い気持ちになり、水の麗人をそっと見やった。
「っっ!?」
─── ガーン……
………この効果音がこれほど似合う場面に遭遇するとは、思いもしなかった。
私はもちろんのこと、先ほど私にガンを飛ばされた炎の守護聖も、そして私たちの後をついて玉座近くまできていた緑の守護聖、風の守護聖、鋼の守護聖ら…。
私達は目の前に広がる光景に、まさにあっけに取られて立ち尽くしていたのだった。
「アンジェリーク………。今宵のあなたはなんと美しいのでしょう……。
私はあなたを賛美するに相応しい言葉を紡ぎ出すことができません。月の光に照らされた海の真珠の輝きを、言葉で褒め称えることができるでしょうか? いえ、そんな恐れ多いことできるわけがありません。
……私はただ、あなたにこの手を差し伸べて、私とダンスを踊っていただきたいと……、そう願うだけです」
「リュミエール様……」
うっとりと潤んだ瞳で見上げるリュミエール。
それをぼおっとした瞳で見返して、リュミエールの差し伸べた手に、まるで魔術にでもかかったかのようにすっと手を乗せるアンジェリーク。
あんじぇりぃぃぃぃぃくぅぅぅぅぅぅっっっ!!!
目の前の信じられない光景に、私は心の中で絶叫していた。
なぜだッ! なぜお前は誰にでも優しいのだッ!
(そういうことじゃないと思いますが……(--;;))
私の心の絶叫が届いたのであろうか?
リュミエールは私のアンジェリークの手を取りながら、ちらりとこちらを流し見た。
その……一瞬の得意げな瞳の色……。
りゅ……み…えーる……?
「あ~~あ…、当然のようにリュミちゃんにさらわれちゃった~。
あの微笑と一見控え目だけど断りきれない囁きが、曲者なのよねぇ~」
……そ、そうなのか?
「やっぱり、一番美味しいところはリュミエールが持っていったな。くそっ………、こんなことならクラヴィス様の眼力に抵抗してでもお嬢ちゃんを誘っていれば……」
夢の守護聖と炎の守護聖が囁きあう。
「クラヴィスもリュミエールを見習わないとだめみたいですねぇ~」
ルヴァっっ!!
お前にだけは言われたくないっっ!
「クラヴィスはしんねーかもしれねーけどよ、リュミエールはあんな顔してなかなかしたたかなんだぜー」
頭の後ろで両手を組んで鋼の守護聖が言う。
「あれはやっぱり………あきらめてませんよね、リュミエール様……」
「しぃーーーっ、ランディ、クラヴィス様の前で言っちゃだめだよ」
風の守護聖と緑の守護聖が私の方をちらちらと覗っていた。
私の思考回路は完全に停止してしまったようだ。
まさかあのリュミエールが……。
私の手の中からアンジェリークを奪ってゆくとは……。
いや、アンジェリークは私の妻なのだから、正確に言えば奪ったとはいえまい。たかがダンスではないか……。そこまで妻を束縛してはそれこそ女王陛下や他の守護聖から苦情がくるのは目に見えている。
そう…………たかがダンス…………。
だがっっ、納得がゆかんっ!
リュミエールが私とアンジェリークの為に身を引いたと思ったのは、まるで検討違いだったということかっ。
私がやり切れない思いに身を焼いていると(……でも全然表情変わってませんよ~、クラヴィス様…)、唇に皮肉な笑いを浮かべてジュリアスが言った。
「飼い犬に手を噛まれるとはな…」
それをお前が私に言うかっっ。
私はちらりと女王陛下と炎の守護聖を目をやって、悔し紛れに言い返した。
「それはそのままそっくりお前に返そう…」
「なにっ?」
ジュリアスが驚いて振り返ると、玉座に座る女王陛下を炎の守護聖がフロアに連れて行こうとする矢先だった。
「オスカーっっ!! 陛下っっ!!」
騒ぎまくるジュリアスを放っておき、私は大きくため息をつく。
どうやら私の目は上手くごまかされていたようだな……。これからリュミエールを第一要注意人物にリストアップしておかなければ。
妻に迎えたとはいえ、まだまだ油断は出来ぬようだ。
フロアで楽しげに踊る二人を目標に捉え、足早に近づく。
これ以上アンジェリークをリュミエールに預けておくとどうなることか分からない。ここは早々に退去するに限る。
ワルツを踊る二人に合わせ、無理のないよう流れに乗ってアンジェリークを腕の中に取り戻すと、私はリュミエールにちらりと流し目をくれる。
ギロリっと睨み付けられないところが私の甘さなのだろうか?
リュミエールはアンジェリークの胸元に未練がましそうな視線を向け、遠ざかりつつある私の後ろでぼそりと呟いた。
「惜しかったですね…。もう少しでしたのに……」
何がもう少しなんだっっ!!
とうとう怒り心頭に達した私は、強引にアンジェリークを引き寄せるとその耳元に囁く。
「今日はもう帰るぞ……」
「え~~っ、もうですか??」
「今度パーティに参加する時は、補佐官の正装でなくては行かせん」
「どうして…? そんなにお気に召しませんか、このドレス?」
「……そういうことではない…」
お気に召したが、お気に召さんっっ。
そんな私の、デリケートで複雑な男の心中をちっとも理解できないアンジェリークは、こんな時にでも条件反射で「YES」と言ってしまいかねない甘えた声でねだる。
「気に入ってるのにな…。なんかとっても大人びて色っぽく見えるのにな……。…………だめ??」
上目遣いの輝く瞳に、一瞬くらっと眩暈を覚えて無意識に承諾してしまいそうになったが、私はなんとかそれを堪えた。
「だめだ…。……お前の肌を堪能できるのは、私だけだ……」
「クラヴィス様ってば…」
くすりっと少女が笑う。
……どうやら分かってくれたらしいな……。
「じゃ今度は陛下みたいな服にしようっと……」
…………か、身体の線がくっきり………か……?
「それも不可だ」
ぷっと頬を膨らませ、「え~どーしてっっ?」と私の腕の中で抗議するアンジェリーク。
……ふぅ………。
この腕に捕まえたとはいえ、まだまだ気苦労の絶えない私は、今後も起こるであろう『アンジェリーク争奪戦』を思うと頭がズキズキと痛み出してくるのだった。
…………が、今宵はひとまず我が腕に天使を取り戻したので、良しとすることにしよう。
これだけ心の中で大騒ぎしていても、口にしてる言葉はほんの僅かなんですね、クラヴィス様…(-_-;;)
アンジェリークを獲られないように、無気力を返上してがんばってくださいな(爆)