gift for 晶
「泰明さぁ~ん、ね、どっかで涼みましょう」
容赦なく照りつける陽射しに耐えきれずに、あかねは情けない声をあげた。
対照的に泰明の方はうっすらと汗ばんでいるものの、その表情からは暑さなど欠片も伺えない。
しかしそのようなあかねの提案に泰明が逆らうはずも無く、二人は近くに見付けたファミリーレストランに足を向けたのだった。
そう言えばこういう場所を二人で訪れたのは初めてのことである。
彼が現代に、あかねと共にやってきてから早二月近く。
すったもんだの末、あかねの家に居候することになった泰明は、大学生であるあかねの兄とともに時折大学に通い、空いている時間はアルバイトをして過ごしている。泰明と同居できるようになったのは、その兄の力による所が大きいので、あかねは兄に頭が上がらないでいた。彼が泰明を連れまわしても、文句の一つも言えないでいる。だから久方ぶりに一緒に出掛けられた今日という日は、朝からはしゃぎっぱなしで、陽射しのきつさも手伝って午後も回った頃にはすっかりバテていたのだ。
店内は心地よく空調が効いていて、数多いメニューから飲み物とデザートを頼んだ頃にはようやく人心地つくことが出来たのだった。
「うふふ…。泰明さんとこういう所にきたのは初めてだよね。なんだか嬉しいな。恋人同士みたい」
「? そうか?」
あかねの言葉に軽く眉を寄せる。
「…恋人同士みたい…ということは、私達は違うのか?」
「えっ? あ……っとその……、ち、違わないけど……」
「ではどういう意味だ?」
「えっと…、普段恋人同士なのに…あんまり一緒にいられなくて…、久しぶりに一緒に出掛けて普通の恋人達みたいにこういうところに入ったり出来たから、嬉しいってことです」
「…そうか。私もあかねと共にいることが出来て嬉しい」
にっこりと微笑みかけられ、あかねは僅かに頬を染めた。
通常の恋人同士であるならば、もっとムードのある場所にいくのであろうが、そんなことは思い及ばないらしい…。なんとも初々しい(??)二人であった。
「先程あかねが頼んだ“ちょこれーとぱふぇ”というのはなんだ? ちょこれーとというのは分かるが…」
ちょっとでも疑問に思ったことはすぐに聞いてくる。こんな所は京にいた時となんら変わり無い泰明に、あかねは嬉しくなって大きめのテーブルの上に身を乗り出し、微笑んだ。
「それは、“ぱふぇ”がくるまで秘密です」
「今ではだめなのか?」
「はい」
「そうか。では待とう」
ほどなく、二人の頼んだものが運ばれてくる。
あかねはアイスティーにチョコレートパフェ。
泰明は、あかねの兄に連れまわされた結果、唯一気に入ったコーヒー。
「この“コーヒー”というものは良いな。無駄な甘味がない上に精神を集中させる成分が含まれているらしい。……ところで、それが“ぱふぇ”か?」
「そうです~」
あかねは満面に笑みをたたえて説明する。
「チョコレートパフェって、チョコレートだけじゃなくてクリームもアイスもフルーツも乗ってるから、とってもお得なんですよ~~」
その年頃の女の子なら大半の子が好きであろう甘いデザートが、あかねもまた大好きであった。
「泰明さんは、甘いものってきらいだったんですよね」
早速にチョコレートがかかった生クリームをさじですくい、幸せそうに口に運びながらあかねが言う。
泰明は少し首を傾げた。
「いや…。適度な甘味は身体の疲れをとる。別にきらいではない」
とは言ったものの、この世界の甘いものは京の菓子類とくらべものにならない程、甘い。とにかく、甘過ぎる。酷いものは舌が痺れるくらいだ。そこまでの甘さは必要無いと思うし、泰明はいただけなかった。
「じゃ、一口、食べてみます?」
あかねは、チョコレートと生クリームとアイスを一緒にすくい、泰明の前に差し出した。
「はい」
「うっ…」
にっこり笑顔で促されて、好奇心旺盛な泰明としては二重に口を開けざるを得ない状況だ。
(ちょこれーとは、かなり甘かった。あれはそれほど食べたいと思わないが、くりーむだのあいすだのと一緒に食すと一体どんな味がするのだろう……)
結局、好奇心が勝ちをおさめた。
泰明が口を開くと待ちかねたようにあかねがそっとさじを入れる。
最初に感じたのは冷たさ。
次にバニラ独特の香りとチョコレートの風味。
そして次に舌は生クリームのコクを伝え、最後にミックスされたほろ苦い甘さが口の中に溶けてゆく。
「どうですか?」
「………………悪くない」
そのパフェは優しい甘味で泰明の中に広がった。
身体の疲れなど全て吹き飛んでしまうような、“心”が暖かくなるような、そんなうっとりするような甘さ。
チョコレートのみを食べた時に、嫌味なほどに感じた甘さとは全然違う。
「この間“ちょこれーと”を食べた時には、無意味に甘味を感じて嫌気がさしたが、何故だ? この“ぱふぇ”は同じ“ちょこれーと”が乗っているのに、どうしてこれ程味が違う?」
「このパフェのチョコレートって生チョコだから…。きっと泰明さんが食べたのとは、そこが違うんじゃないのかな」
「“なまちょこ”? 火を通してないということか?」
「う、う~~~ん(^^;;) ま、そういう所かな…」
実を言うとあかねにもよく分からなかったので、そこは適当に言葉を濁す。
「お菓子のことなら後で詩紋くんに聞くとよく分かるよ」
「…そうか。では詩紋に聞くとしよう」
「もっと食べますか?」
意外にも泰明がパフェを気に入ってくれたことで、あかねは気を良くして再びそれをさじですくい、泰明の前に差し出した。
「はい♪」
今度はためらい無く泰明の口が開かれた。
パフェはたちまちのうちに溶けて、先程と同じ程よい甘さを伝えてくる。
「あかねも、食べろ」
「はい」
あかねの口の中にも泰明が感じたのと同じ甘さが広がる。
(…? ま、確かにすっきりとした甘さだとは思うけど、チョコレートも結構甘いし、他の店のパフェとあんまり変わらないと思うけどな……?
………いいか。泰明さん、気に入ってくれたみたいだし)
あかねが泰明にパフェを食べさせると、パフェよりもとろけそうな笑顔であかねに微笑む。
そして必ず、「食べろ」と促される。
そうして交互に食べているうちに、すっかりガラスの器は空になってしまった。
「おいしかった~。また食べましょうね?」
「そうしよう」
そうやって微笑む二人は、周囲の客の呆れたような視線に、当然のことながら気付くことはなかった。
……そして後日。
“ちょこれーとぱふぇ”に味をしめした泰明は、その日以来あかねの兄や他の人間と入った店で必ずチョコレートパフェを頼み、周囲の人間を仰天させることになる。
しかし、なん度食べてもあの日のパフェのように優しい甘さを感じることはなく、顔をしかめる程のきつい甘味に首を傾げるはめとなった。
泰明はまだ気が付かないでいた。
――― あかねが差し出してくれた“ぱふぇ”だけが、優しい甘味をしていたことに…。
晶さんのキリ番リクエストです。
またしても、「お口、あ~~ん」ですわ(--;;)
ま、ただいちゃいちゃしてるだけなんですけどね~~
晶さん、こんなんでごめんなさいね~