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現代の風 ─ Ver.頼久 ─ 



「─── さあ着いたぜ。ここが俺の家だ」

 夜も更けて、月光がアスファルトの道を照らす中、天真と蘭、そして頼久の三人は天真の家の前に立っていた。
 彼らとあかねを含む四人が現代の、あかね達の通う学校の古井戸へと着いたのは昼過ぎの事。今の今まで行方不明だった時の事をどう説明するか、頼久をどうするか相談していて、心は急いていたのだがこの時間となってしまったのだ。
 あーだこーだの討論の末、頼久はしばらく天真の家に居候させてもらうことになった。天真と蘭の家は母子家庭だし、一人っ子であるあかねの家には連れて行けるはずもなく……。ともかくしばらくして落ち付くまで、あかねと頼久が一生連れ添う云々は、あかねの家族に内緒にしておくことにした。行方不明だった一人娘が突然どこの馬の骨とも知らぬ男を連れて帰ってきて、「私のダーリン♪」とかなんとか言ったって、「そりゃ、おめでとう」などという両親なんてそうそういるわけない。

「私は神子のおそばを離れるわけにはいきませんっ。もしも私のいない間に何かあったなら…」

 と駄々をこねる(笑)頼久をここまで連れてくるのは一苦労だったが、天真の必死の説明でここは京の町よりも格段に安全であること、またあかねの家は道場を開いているので父親がいれば安全な事などを聞いて、しぶしぶと承知したのだった。

「ここが天真の屋敷か……。─── ふむ、なかなか立派な門構えだな」

 なんの変哲も無いブロックの塀であるが、誉められれば天真とて悪い気はしない。

「まあな…。ま、入れよ」

 玄関のアプローチに先だった天真はドアを後ろ手に指差した。

「─── で、屋敷はどこだ?」

「あぁ???」

「門が立派で高いゆえ、屋敷がよく見えない。そこから車が入るのか? それにしては随分と狭いような気がするが…」


 どうやら頼久が門だと思っていたのが家だったらしい。(…おいッ…;;)

「……てめぇ、喧嘩売ってるのかよっ」

「お兄ちゃん、頼久さんはこっちの世界のこと何も知らないんだよ」

「????」

「ちっ……。頼久……この門が俺の家だっっ。よっく覚えとけっっ」

「……なるほど……」

 と言うわりに怪訝そうな顔をした頼久は、天真と蘭の後に続いてドアをくぐった。

「おふくろっ、今帰ったぜっっ。蘭も一緒だ」

 誇らしげな天真の声が響くなり奥の方からバタバタと足音がして、やつれた様子の女性が飛び出してきた。
 天真と蘭の姿を見るなり、言葉にならず泣き崩れる。

「おかあさんっ」

「おふくろ」

「蘭……、天真………。よく……無事で………」

 廊下に座りこんでしまった母親を支え、天真はいたわるように声を掛ける。

「ま、いろいろあったんだけどよ。詳しいことは後で説明する。それより… ─── 頼久、あがれよ」

 頼久は軽く頷くと、廊下に上がり、おもむろに膝を付いた。

「天真と蘭殿のお母君でございますか?
 お初にお目にかかります。源頼久と申します。
 先頃まで今をときめく左大臣が長子、藤姫様にお仕えし、今では龍神の神子であらせられる元宮……」

「よーりーひーさーっっ。とりあえず、余計なことはいいんだよっ」

 ほっとくとどこまでも混乱を招きそうな口上を続けそうで、天真は慌てて声を張り上げる。

「だが、天真…。目上の方にきちんと挨拶するのは武士のつとめ……」

「いーから、その事は後でおふくろに説明すっからっ」

「…? そうか……?」







「………って、そういうわけなんだ。まぁ、おふくろが信じるか信じないかはおふくろの勝手だけどよ。天に誓って、俺はいっさい嘘はついてねぇ」

 行方不明だった時の事を包み隠さず母親に説明した天真は、一息ついてダイニングのいすに寄りかかった。
 今まで説明するのに必死で蘭と頼久のことなど忘れていたが、ふと頼久の方に視線を移すと…

「……おいっ、頼久。……なんで椅子の上に正座してんだよ…;;」

 確か座る時は天真や蘭の様子を見て同じように腰掛けたはずだ。

「いや…落ち付かなくて。この方がやはり気持ちが引き締まる」

「……………………ま、いいけどよ………」

 椅子の上にきっちりと正座して背筋をピンと伸ばしている頼久を見て、天真はふうっと溜息をついた。なかなか…。先行き不安なようである。(当然でしょう……)

「頼久さんはとっても礼儀正しいのね。
 ─── いいわ。天真と蘭の友人ですものね。いくらでも居て頂戴。
 …それにとってもいい男ですものね~、蘭?」

 蘭と母親は目配せあってにこにこしてる。

「…いっとくが、頼久はあかねのお手つきだぞっ」

「そんなの知ってるわよ~。当たり前でしょ~、お兄ちゃん。
 私とおかあさんが言いたいのはね、家の中に美形がいると目の保養になるってことよ」

「けっ、勝手に言ってろよ。─── それよりおふくろ、俺の話、信じてくれたのか?」

「信じるも何も、あなたは必要の無い嘘はつかないでしょ? だったら、それでいいじゃないの。あなたと蘭がこんなに慕ってる人だもの。それにあかねちゃんのいい人なんだったら尚更よ」

「おふくろ……」

「いい母親だな…天真」

「ああ」

「…………ひとつ尋ねたいことがあるのだが……」

 微笑を浮かべたまま俯いて、頼久はすっと腰に手を移動させる。

「ああっ?? なんだ?」

「この屋敷にはここにいる私達の他に誰かいるのか?」

「───?? いや、誰もいないはずだが?」

 首を傾げながら天真は母親を見る。

「ええ。私達のほかには誰もいないわよ」

「そうか……」

 頼久は椅子の上から器用に床に降り立つと、腰の太刀にそっと手をのばす。

「頼久っっ!?」

「しっっ…」

 京から来たままの姿なので帯剣している。
 それに気付いた天真はうっと息を詰まらせた。

(……やべ…、あれを取り上げとかなきゃ…)

 あんなものを持ってふらふらしていた日には、銃刀法違反で連れていかれてしまう。(笑)

「より───」

「静かに」

 有無を言わせぬ迫力で再び天真を制すると、頼久はすっと廊下に忍び出て、奥の部屋の前まで音も立てずに近付くと、ふすまの前でそっと中を伺う。
 その様子を固唾を飲んで見守る三人。

「─── 何者っっ!?」

 素早くふすまを開けると同時に抜刀すると、頼久はすかさず中に踏み込んだ。

「頼久っ」

 天真が叫んで慌てて駆けつける。
 ………そこには。

「曲者、名を名乗れ。ここが地の青龍の屋敷と知っての狼藉かっ」

 妖しく光る太刀を斜に構えての威嚇は、迫力充分である。
 その場を見た限り、あかねが惚れ直すのは言うまでも無い。

 ………が。

「頼久…………おまえ………」

 天真を始め蘭と母の目に映ったのは、つけっぱなしのテレビの前でポーズを決めている頼久の姿であった。

「あらやだ。テレビ消すの忘れてたわ」

「…………いいんだ、頼久………。それ、曲者じゃねーよ…………」

「え?」

 決めポーズのまま会得いかぬ表情で天真を見返す頼久。

「…………いいからこいよ。お前にゃ、この世界のことみっちり教えなきゃならねーな………」








 頼久は心の拠り所である太刀を取り上げられ、呆然と椅子の上に正座していた(笑)
 天真は腕を組んで彼の前にでんと座り、蘭と母親は二階の天真の部屋に布団を一組運んだり亡くなった父の衣類を取りあえず揃えたりと、忙しく立ち動いている。

(太刀を取り上げられ、私はどうやって神子をお守りすれば………。いや、太刀なぞなくともこの身に代えてでも神子殿だけは……)

「おい、頼久。この世界はおまえがいた世界と全然違うんだ。刀なんか持ってたら、警察に危険人物とみなされて捕まっちまうぞ」

「けいさつ……?」

「んとその……悪い奴や罪を犯した者を捕まえる人の事だ」

「……検非違使のようなものか……? ではどうやって身を守るのだ?」

「現代は皆、大抵刃物は持ってねーよ。─── だからこの手で充分だ」

 そう言って握った拳を己の前でもう片方の手にぶつけた。

「拳か……なるほど」

「ま、今までずっと剣一本で生きてきたんだもんな。急にそんなこと言われたって無理だろうから、明日竹刀を調達してきてやるよ。─── ほら、あかねの家、道場だっていっただろ? 竹刀の一本ぐらいなんとかなるさ。
 そうだっ。このさいそれを機会に入門でもしてみろよ。そうしたら毎日でもあかねに会う口実が出来るじゃないか」

 それは頼久にとっても真にいい提案のように思えた。
 拒む理由など何一つない。
 頼久は二つ返事で頷き、ようやく人心地ついたように表情を緩ませた。

「すまない、天真。煩わせてしまって」

「いいってことよ。それよりがんばってこの世界のこといろいろ覚えてくれよ。ずっとこの世界で暮らしていくんだろうからな」

「ああ。努力する」

 ─── その時、であった。


 とぅるるるるるるるる ───


「!!!!!」

 突然の異音に、頼久の身体がびくりっと飛び跳ね、とっさに身構える。

「何だっっ!?」

「─── ああ、心配するな。あれは“電話”って奴だ。後で説明するからちょっと待ってろよ」

 天真はダイニングルームから続くリビングに歩いてゆくと、そこで妙な音を出している物体の一部を持ち上げ、耳と口に当てた。

「はい。もしもし…森村です…」

(……??? 天真は何を一人で喋っているんだ? アレは一体なんだろうか…。不思議なモノがこの世界にはたくさんあるな……。不思議といえば、この灯りはどうやって灯してあるのだろうか?????)

 疑問符を沢山飛ばしながら、頼久はきょろきょろと辺りを見まわしていた。
 そこに天真がやってきて、先程耳に当てていた物体を頼久に差し出す。

「あかねがお前の声が聞きたいとよ」

 ほらと言って差し出されたそれを恐る恐る、天真がしていたように耳と口に当てる。

「神子殿???」

「あー、それじゃ反対だっつーの。ほれ……」

 物体の、耳に当たった部分から聞き覚えのある柔らかな笑い声が聞こえ…。

『……くすくす…。ふふっ、頼久さん、私だよ』

「神子殿っ!?」

 いきなり耳元であかねの声が聞こえ、頼久は驚いて物体を取り落としてしまった。

『頼久さん…? どうしたの? 今すごい音がした………』

「神子殿っ!? 何ゆえその様な所にっっ。囚われているのですか? 神子殿!?
 ─── 今、この頼久が命に代えてもお助けしますゆえっ」

 心掛けは立派ながら、その物体に対してどうしたら良いのか分からぬ頼久は、落ちた受話器の回りを遠巻きに(笑)ぐるぐる回りながら、叫び続けた。

「神子殿!? お気を確かにっ。神子どのっ?」

『頼久さ~~ん? もしも~~し………』

 すでに見放した状態の天真が脇に佇む中、頼久はなす術も無くただひたすらに受話器の回りをぐるぐると回りつづけていたのであった。
 …………現代の風はなかなかに、剣豪として知られた兵(つわもの)にも強敵のようである。




すいませんっ、すいませんっ、すいませんっっ
なんでここまで壊れちゃったのよ~~頼久さんっっ
ふうっ………ばたっ。(気を失って倒れた音)